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TAIPEI 2016夏季号 Vol.04—写真家・蜷川実花新しさと伝統の間に潜む台北の美

アンカーポイント

発表日:2016-07-12

更新日:2016-09-23

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文 _ 翁健偉
写真 _ 顔涵正

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華麗で絢爛、独特な美的感覚を備えた作風で知られる日本の写真家、蜷川実花さんがこのたび、台北当代芸術館(MOCA Taipei)にて回顧展を開催しました。蜷川さんはこれまでの創作活動を振り返るとともに、自身の目に映る台北の印象について語ってくれました。
「桜の花はこの上なく美しいけれど、すぐに散ってしまうのが惜しい」と多くの人は言います。しかし花を愛する蜷川さんは、つかの間に精一杯咲き誇るさまこそがすばらしいと考えます。「実花」という名前は、彼女の母が「実も花もある人生を」と願いを込め付けたそうです。蜷川さんの作品にはいつも、さまざまな被写体が放つあふれんばかりの生命力がふんだんに表現されます。わずかな間しか咲くことのできない花々の刹那の美しさを、彼女は永遠に留めることができるのです。

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1. 蜷川実花展は、さまざまなメディアの境界を越えた刺激的なコラボレーションなど、アーティストとして20 年近くの創作の足跡をたどる集大成。
写真家として震災に向き合う
予想以上に早くフイルムが世の中から消えてしまったことには心を痛めたと言います。もちろん、デジタルカメラについても、思いのままいつでも撮影でき、カラーで撮った写真をモノクロに変換するなど、フィルムではできない加工ができることで、独特の美的感覚を思う存分に花開かせることができるとその利点を挙げています。これまで立ち止まることなく創
作活動を続けてきた蜷川さんですが、そんな彼女にもシャッターを切るべきかどうかためらったことがあるそうです。それはあの東日本大震災が起き、日本中が震災による悲しみに沈んでいた時のことでした。
震災直後、ちょうど桜の満開になるころ、彼女は「一人の写真家として人のために何ができるだろう」と考えました。そして、当時、誰もが花を見るような気持ちになれないような中、後でみんなが「あの時の桜はどうだったんだろう」と思い起こした時に「こんなにも輝くような美しさだったたんだよ」と見せられるよう、その年の満開の桜を写真に収めておこうと決めたと言います。そこで、日本の社会が悲しみを乗り越えられますようにと、1 週間の間に桜の写真2,500 枚を撮影しました。これが一つの魂の癒しであることは間違いありません。

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2. 華麗で絢爛な作風に蜷川さん独自の美的感覚が表れます。
台北の活気と情熱が大好き
ここ数年、蜷川さんは頻繁にアジア各国へ出かけ、異分野間の交流を深めています。台北にも20 ~30 回も足を運んでいるそうで、さらに今年、彼女は海外での大規模な個展の最初の開催地として台北当代芸術館を選びました。台北をアジアの各都市へと足を延ばす出発点と考えているのです。
蜷川さんは7年前に初めて当代芸術館を訪れた際、ここで個展を開きたいと感じたそうで、「今回、夢がかなった」と喜びを語ります。また彼女にとってこれほど大規模な個展は初めての経験だったため、当初はうれしさと同時に大きな挑戦だと感じたといいます。なお今回の個展では大量の作品展示に加え、来場者がその人なりの方法で個展と一体化できるよう「自撮り」できるスペースが設けられました。
蜷川さんは、女性シンガーの蔡依林(ジョリン・ツァイ)、ロックバンド・五月天(メイデイ)の阿信、アイドルグループ・S.H.Eといった台湾のアーティストの相次ぐ撮影を通じ、台湾人に対して「親しみやすく話しやすい」という印象を抱いているそうです。また、たびたび訪れている台北の魅力についても「人情味にあふれているところ」と答え、「台北の人はとっても真面目で情熱的、みなぎるパワーを感じさせる」と語ります。
さらに蜷川さんは「台北の美しさは新しいものや考え方を伝統に取り込むことにある」と指摘しました。「伝統の中に新たなアイデアを加えることで台北独特の活気が生まれている」―そこが最も人を惹きつけると分析します。
すっかり台北好きとなった蜷川さんは今年、台北市の撮影を計画しており、これを通じて台日間の観光や交流の活性化につなげたいと考えています。「まずは台北にゆかりのある、つつじのような花を撮影しようと思っています」と語る蜷川さんは、人々に驚きに満ちた喜びをと考えハイライトを練っています。
仕事以外にも彼女には自分なりの台北の楽しみ方があります。2月に台北を訪れた際には美容院に行って台湾式の洗髪を体験したそうです。彼女はその時のことを「頭いっぱいにシャンプーを付けて上に引っ張って髪の毛を高く持ち上げるんですよ」と楽しそうに話します。また台北の食べのものが好きだという蜷川さんは、色んな夜市を巡り、まるで地元台北の人のように食べ歩きを満喫するそうです。

8.1.4_蜷川在311大地震後拍下了2,500張櫻花照片,彙集成「櫻系列」,把櫻花的美悉數捕捉、放大。.jpg
3. 東日本大震災後、蜷川さんは2,500枚の桜の写真を撮影。それらの写真だけで構成した写真集「桜」を発表しました。
名作を網羅した個展
今回の回顧展、「蜷川実花展」では、美しい花、金魚、ポートレートから自身で撮りためたセルフポートレートまで、さまざまなテーマで作品を展示し、異なる角度からこれまでの彼女の仕事ぶりを振り返りました。
「Flowers」―チョウなどの小さな虫が花に止まり、両者の境界線が曖昧となるような瞬間が好きだと蜷川さんは言います。また花びらが風に吹かれ、普段とは違った姿を見せる様子にも引きつけられるそうです。
「Liquid Dreams」―人間が観賞するため人工的に生み出され、飼育される金魚に人は美しさや幸福感を感じるものの、蜷川さん自身は、金魚の持つ美しさから形あるものの価値や人間として最も切実な面に思いを馳せます。
「桜」―桜の美しさを存分に捉え、大きく引き伸ばした作品が壁4面、床を覆い尽くすよう展示されました。これは2011 年に発生した東日本大震災後、その年の満開の桜を記録することで人々に自然の力を再認識させ、災害によってその生命力が尽きることはないことを伝えようと撮影されたものです。
「Portraits」―日本のスターからアジアのアーティストまで、多くの著名人が蜷川さんによってカメラに収められ、彼女の最も得意とする華麗で美しい作品に仕上げられました。その作風は賞賛されることもあれば、一部の人から繰り返し重ねて表現する美について「重過ぎるのでは」との疑問を向けられることもあります。このことについて蜷川さんは「日本の芸術は一般的に簡素な芸術との印象を持たれますが、日本には簡素なものだけではなく、豊かな色彩を重ねる『琳派』(編注:表現手法にこだわる日本の造形芸術の流派)のような作品も存在するのです」と指摘し、自分の作風は突然降って湧いたものではなく、ちゃんと由来があるものだと説明します。
「Self-image」―その他のシリーズ作品とは異なり、真っ暗な部屋の中にモノクロのセルフポートレート作品が展示されました。蜷川さんは映画監督など、大勢の人々とかかわる仕事の合間を縫って、カメラ一台と自分一人だけで、自分の姿を撮影することで外の世界の喧騒から離れ、心の中の静寂に立ち返りたいと考えます。このシリーズはもともと個人的な記録用にと撮影したもので、外部に発表するつもりはなかったそうです。芸術家の自分自身に対する独白といった印象が強く感じられます。
「TAKE OVER THE WORLD」―蜷川さんがこれまでに手がけた写真集、雑誌のカバー、アーティストの写真、監督を手がけたミュージックビデオ、および様々な分野でのコラボレーションにより生み出された商品が展示されました。蜷川さんは「もし作品がギャラリーに展示されるだけなら見てくれる人は少ないけれど、200 円のペンをデザインすればもっと多くの人に自分の作品を見てもらうことができる。これは作品が人々に触れるための一つの手段なのです」と語ります。

蜷川実花
写真家 映画監督
•日本で最も権威のある写真賞「木村伊兵衛写真賞」受賞。
•個展(巡回展)「蜷川実花展─地上の花、天上の色─」は多くの美術館の入場者記録を更新。
•現在は現代アートティストとして小山登美夫ギャラリーに所属。
•その作品はファッション界にも影響を及ぼし、これまでエトロ(ETRO)、セリーヌ(CELINE)、マスターマインド・ジャパン(mastermind JAPAN)といったブランドとのコラボ商品を数量限定で販売している。
•2007 年公開の『さくらん』で長編映画初監督を務める。
•映画監督として2作目となる『ヘルタースケルター』(2012 年公開)は興行成績22 億円を突破。
•2020 年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会理事に就任。

公式ウェブサイト:www.ninamika.com
©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery

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