発表日:2018-12-07
1530
ギュンター・ウィットームの大稲埕
訪れるべき5つのおすすめスポット
文 Rick Charette
写真 楊佳穎、台北市観光伝播局
今と昔が力強く混ざり合い、活気を取り戻した歴史ある大稲埕。ある日の午後、台北に暮らすギュンター・ウィットーム(Günter Whittome)さんとこの町を探索しました。ドイツと英国にルーツを持つギュンターさんは旅行ガイドブックの著者であり熱心な歴史研究家、また評判の高い翻訳会社のオーナーでもあります。
ギュンターさんはドイツから、今や「我が家」と呼ぶ台湾へやってきました。ドイツにはまだ幼かった5歳の頃にイギリスから移り住みました。父はイギリス人、母はドイツ人で、母親が晴れの日の少ないイギリス北西部の気候に馴染めず、一家は荷物をまとめドイツへ引っ越したのだそうです。「父は語学教師でした。私は大学でまず英語学とフランス語学を、その後中国語に研究対象を移し、中国と台湾の両方に滞在しました。台湾に移住したのは2003年の終わりですが、初めて来たのは1985年に学生としてで、その後何度も訪れました」
ギュンターさんの修士論文は、1947年に勃発した「二・二八事件」がテーマでした。大稲埕にほど近い延平北路で起こった暴行事件を発端とし、台湾全土へ広がった事件です。また、2005年にドイツの旅行ガイドブック「Polyglott On Tour」シリーズの台湾編を執筆、18カ月~24カ月おきに出る改訂版もすべて担当しています。第7版は2019年春に発売予定で、最新情報を得るためにたびたび大稲埕を訪れています。
「我が家」台湾の第一印象
「1985年、輔仁大学で研究するため初めて台湾へ来ました。台湾は知識と経済の面でとてもオープンであることに感銘を受けました。修士論文は二・二八事件がテーマで、大稲埕に引っ越したいとずっと思っていました」
学生として初めて訪れた時から台湾は飛躍的に変化し続けている、と言います。「台湾はアジアでも数少ない真の民主化を遂げた豊かな国です。公共交通機関もはるかに便利になりました。1990年代に市外に出かけた時のことをよく覚えています。ガタガタ音を立てて走るバスのほとんどは『良好』な状態ではなく、とくに夜になると、運転手は空いたスペースがあればどんどん車線を越えて突っ走っていったものです」
「今の台北にはMRT、YouBikeやレンタルバイクなどがあり、とても便利で快適です。文化施設もはるかに多くなりました。1987年に戒厳令が解除されて海外旅行が珍しくなくなり、国際化がさらに進みました。だから海外旅行者が台湾を訪れた時、好ましく感じるのです」
欧州連合(EU)各国から台湾を訪れる旅行者が安定して増加している理由について、ギュンターさんは台湾が安全で自由な民主国家であり、人が親切で、素晴らしい料理や豊かな自然と文化があるからだと言います。「みんな常に新しい場所や『穴場』を地図の上で探していますからね。また、台湾の明るいニュースが時々取り上げられることも理由のひとつです。同性婚の合法化推進のニュースは特に世界中の若い世代の注目を集め、台湾は進歩的なアジアの国で、特別な場所だという好意的な印象を与えました」
ただ、海外旅行者のほとんどは台湾のことをよく 知らない、と言います。「海外メディアは中国との関係が緊張したり、大規模な選挙が行われた時だけ台湾について報道します。タピオカミルクティーブームのような面白いニュースもありますが、わずかでばらばらな情報しかないのです」。しかし実際に台湾へ来てみると、嬉しい驚きに出会います。「知人のドイツ人作家は、ドイツのひとつの州の広さしかないこの島に素晴らしい多様性があることに驚いていました。高山のすぐ近くに海が広がり、文化も非常にさまざま。多様性のイメージは、実際の50倍の大きさだと感じたそうです」
▲迪化207博物館は1962年に建設された漢方薬局が前身です。
歴史マニアが愛する大稲埕
大稲埕に興味を持ったきっかけについて、ギュンターさんは「もちろん二·二八事件をテーマにした修士論文を書いたことです。大稲埕と周辺で数多くの事件が起こりました。ドイツのガイドブックで紹介したのは、ここが台北で訪れるべき重要な町だからです」と語ります。大稲埕は1850年代に集落が生まれ、台北の起源となった場所のひとつです。このような歴史に満ちた町は、台湾では数多くありません。また地元の人や初めて訪れた旅行者から聞かれる「台湾は醜い建物だらけ」という批判について、「素晴らしい歴史的建築物はあるのですが、密集した建物の中に埋もれてしまっています。大稲埕は狭い地域に多くの魅力的な古い建造物が集まっている数少ない場所。台湾の人々が自国の歴史を称賛するようになった1990年代から、歴史ある建物が次々修復されるようになりました」と述べました。
大稲埕を1日旅すると、何が見えてくるのでしょう。「旧河港に生まれた商業の町の歴史です。西洋と台湾の商人たちが暮らし、19世紀に茶産業で栄えました。現在は小規模の博物館があちこちにでき、海外旅行者は中華圏と台湾の文化について知ることができます」。ギュンターさんはこう説明してくれました。
外国人旅行者が行くべき
5つのスポット
ギュンターさんは、1日で大稲埕を満喫できる場所を数多くの選択肢から5つに絞るために、かなりの時間を費やしてくれました。「ぜひ行くべきおすすめスポット」に選ばれたのは台北霞海城隍廟、永楽市場、迪化207博物館、阿嬤家─平和と女性人権館、迪化街です。「商業、宗教、かつての文化、個性的な食という、歴史ある大稲埕のさまざまな顔が見られる場所を選びました」
地元の文化を知るにはまずここ。「最初は『台北霞海城隍廟』です。小さいけれど重要な寺で、いつの時代も大稲埕の中心です。中華圏にある重要な寺がどこもそうであるように、信仰だけでなく生活と社交の中心でもあります」この小さな寺には600近い神像があります。中でも縁結びの神様、月下老人はそのご利益が海外にも広く知られ、特に日本人観光客が数多く訪れています。ここは大稲埕の開拓が始まった数年後の1850年代に建てられました。
中華文化圏では、それぞれの土地に住民の行いを見張り、死後の裁きを行う「城隍爺」という神がまつられています。城隍爺をまつる寺には善行と悪行を数えるそろばんが飾られ、生きている人はこれを意識します。「ここでは呉孟寰さんを訪ねてください。呉さんは英語を話すボランティアで寺の歴史や神々、文化的な役割、大稲埕の観光スポットについても詳しく案内してくれます」。次のおすすめは「永楽市場」です。「台湾で暮らす外国人にとっても面白い場所です。伝統的な生地の数々や店の営みを見た後に、昔ながらの小吃が楽しめる店もあります。週末や休日には、市場の前で大道芸人のパフォーマンスも行われます。台北霞海城隍廟と永楽市場は迪化街上に隣接しています」
現在、この市場は現代的な9階建てビルの中にありますが、日本統治時代(1895~1945年)初期の1896年の開場時は平屋建てで、100近い生地屋が営業していました。現在、生地屋は2階と3階に集中し、手芸好きの主婦からファッションデザイナー、珍しいお土産を探す海外旅行者まで、客の要望に応えています。客家花布から派手な蛍光カラーの生地まで取り扱い、市場の仕立屋に注文すれば衣料品や実用品をオーダーメイドで作ることができます。
迪化街を北へ進むと、この島の歴史と文化について学べる小さな博物館が2つあります。「『迪化207博物館』と『阿嬤家』です。後者は日本統治時代における台湾の女性史、とくに『慰安婦』問題を扱っています」。ここは一般的な海外旅行者が訪れるような場所ではないと、ギュンターさんも分かっています。「しかし、この問題は現代の政治的関係、そして台湾の近代史を理解するためにも重要です」
「阿嬤家」は戦時中の「慰安婦」のための記念施設で、元慰安婦たちによる人権運動に関する史料、文化遺産や芸術作品などが展示されています。「阿嬤」とは「おばあちゃん」という親しみを込めた呼び方です。フェアトレードコーヒーが飲める「阿嬤カフェ」では、博物館グッズや女性起業家と慈善団体の支援につながる商品も販売しています。ここはまた、ドメスティックバイオレンスの被害者に対するサポートと社会復帰訓練を提供するシェルターでもあります。
▲迪化207博物館の展望台からは旧正月の家族団らんに備えたにぎやかな街の様子を見ることができます。
「迪化207博物館」は1962年に建てられた薬局で、かつての台湾の姿を今に伝える展示施設です。床は人工大理石が敷き詰められ、紅包袋(祝儀袋)から縁起の良い言葉で装飾された鏡など、さまざまな展示物とともに台湾の贈答文化が紹介されています。さらに屋上へ上がれば、この町の貴重なパノラマを楽しむこともできます。
「最後は『迪化街』。この長い通りには古い店が立ち並び、食品や特産品が売られています。迪化街を歩けば店先に香辛料や魚の干物、乾燥させた海藻、漢方薬、数えきれないほどの面白いものが陳列されているのが目に入り、100年前はどんな様子だったのか、想像が膨らみます」
ギュンターさんは、台北霞海城隍廟にほど近い有名な菓子店「李亭香」をおすすめしてくれました。「城隍廟からまっすぐ行くだけです。昔、この店は寺のお供え物にする大きな菓子を作っていましたが、今はおやつにできる小さなお菓子もあります」。魅力的なレイアウトに改築された店内に、伝統的な菓子作りの道具が飾られていることも人気の理由、と付け加えます。「菓子の手作り体験教室もあり、伝統的な中華菓子を作ってうちへ持って帰ることもできます」。教室は通常、週末と休日に開催されています。李亭香は1890年代に開業し、今は5代目が経営しています。多くの地元の店と同じく、この数年間、伝統的な建築様式の店舗を再び魅力な芸術作品として復活させる努力がなされ、外装を中心にすっかり改装されました。この店で一番人気の商品「平安亀」は、長寿の象徴である亀をかたどった無病息災を願う伝統菓子です。
まだある大稲埕でのお楽しみ
「毎年行われる霞海城隍爺の誕生日を祝うお祭りも、その時期に大稲埕にいるなら、ぜひ体験してほしいですね。台湾の信仰生活を垣間見ることができる素晴らしい機会です」。この「台北霞海城隍文化節」では時を超えた神々の行列と儀式、舞台劇、市場、展示、ガイドツアーなどが行われます。
「迪化街の散策だけでなく大稲埕の路地もぜひおすすめします。観光客が集まる迪化街と比べて、より深く心に残るでしょう。とても楽しいですよ」。西寧北路にある「台原亜洲偶戯博物館」は、人形劇団「台原偶戯団」の監督、オランダ人のロビン・ルイゼンダールさんが館長を務めています。「ここは子どもにぴったりです。子どもたちが歴史的な建物に飽きてきたら、このカラフルな博物館でいろいろな遊びが体験できます。また、専属の劇団が主に土曜日に公演を行っています」。8,000体以上の人形を収蔵するこの博物館では、人形の操り方や作り方のガイドも実施しています。
「迪化街から少し離れた『有記名茶』では、週末に伝統的な中国音楽の演奏が行われています」。歴史あるこの茶葉店は創業1890年、茶の貿易を行ってきました。現在も王一家によって経営される、大稲埕の発展を見つめてきた重要な証人です。炭を使った伝統的な焙煎方法を長年受け継ぎ、ガイドツアーで説明を聞くことができます。
大稲埕の文化に触れる楽しい旅をお楽しみください!
ギュンター・ウィットームさんは2000年代から台湾在住。イギリスとドイツにルーツを持つ。旅行ガイドブックの著者であり熱心な歴史研究家、また評判の高い翻訳会社「ChineseContext Whittome + Chang」のオーナーでもある。ドイツ通訳・翻訳協会、北ドイツ通訳・翻訳協会のメンバー。中国語とドイツ語・英語の翻訳および通訳を手がけ、台湾語、フランス語、スペイン語、ラテン語に精通。ドイツの旅行ガイドブック「Polyglott On Tour」シリーズ台湾編の著者。
関連写真
人気の記事
TAIPEI Quarterly 2018 冬季号 Vol.14
創意をプラス─菜食料理にも味わい深さを (TAIPEI Quarterly 2018 冬季号 Vol.14)
世界に香る台湾茶─輝き取り戻す老舗 (TAIPEI Quarterly 2018 冬季号 Vol.14)
大稲埕を満喫するための15ポイント (TAIPEI Quarterly 2018 冬季号 Vol.14)
美味しく身体に優しい─天然食材のローフード (TAIPEI Quarterly 2018 冬季号 Vol.14)
布と刺繍が織りなす美しさ 往年の輝き受け継ぐ 精緻な手作り品 (TAIPEI Quarterly 2018 冬季号 Vol.14)















