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夜通し開催される芸術祭Nuit Blanche Taipei (TAIPEI Quarterly 2019 秋季号 Vol.17)

アンカーポイント

発表日:2019-09-18

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TAIPEI #17 (2019 秋季号)


夜通し開催される芸術祭 Nuit  Blanche Taipei

文= 下山敬之 写真= Nuit Blanche Taipei 2019


最近、世界各地で話題になっている「Nuit Blanche(ニュイ・ブランシュ)」という言葉を聞いたこ とがありますか?Nuit Blancheは夜通し行われる芸術祭のことで、博物館や美術館、ギャラリーなど の芸術に関するイベントが日中の時間帯に限られていたことから、夜間でもこうした芸術に触れられる ようにと開催されるようになりました。

台北では 2 0 1 6年から毎年「Nuit Blanche Taipei」を開催しています。Nuit Blancheはフラ ンス語で「夜を徹す」とい う意味で、イベントには「夜 通し行われる」、「無料参 加」、「市民参加型である こと」 3 つのコンセプトが あります。台北でのイベン トは路上のスペースを使う ことで、できるだけ自然な 形で芸術作品や演出に触れ てもらい、娯楽と芸術の垣 根を取り除こうという狙い があります。過去のイベン トでは毎年 20 万人以上の人 たちが参加し、 2 0 1 8 年 の最高人数は 40 万を超えま した。これは路上で行われ る芸術関連のイベントでは 最多人数となります。

そんな人気イベントの Nuit Blanche Taipei です が、今年は 10 月 5 日(土) から開催されます。ここで はイベントの見どころを紹 介していくので、ぜひチェ ックしてください。

新興都市を舞台に
過去のイベントでは歴史や文化に関連する場所が開催地でしたが、今回の開催地はあえて新興開発エリアで大直(ダージー)と内湖(ネイフー)を選びました。

この 2つのエリアはテクノロジー分野や経済発展の要所であり、台北の他のエリアと比べると文化や芸術方面はあまり開発されていません。大直と内湖はテクノロジー関連の企業が多く、たくさんのサラリーマンがいることから朝ごはんのお店やカフェ、レストラン、バーなどが数多く展開されています。

しかし、これらの場所は住宅街やオフィス街ではないため、サラリーマンが帰宅すると途端に空白地となります。そのため、生活の基盤である居住エリア、長時間滞在する仕事エリアのどちらとも異なる「第三のエリア」と言えます。

第三のエリアには人と人 とが出会う社交の場、限定 的(あるいは開放的)な公 共の場などの様々な機能が あり、大直と内湖も真っ白 なキャンバスに自由に絵を 描くように、この大きな空 間を有効活用できればとい う願いをもって選ばれまし た。

また、このイベントを通 じて大直、内湖に住む人た ちの間に地域の帰属感や尊 厳、アイデンティティが形 成されるといった影響を与 え、ひいては現代アートの 重要な概念である「人類み な表現者」を体現すること を目的としています。

都市の持つ多様な側 面を探る
今年のイベントのテーマ は「二面性バレエ」ですが、 都市が持つ多様な側面を探 るために地理学者デイビット ・シーモン (David Seamon) の提唱した「ボディ・バレエ (Body Ballet) 」と「プレイス•バレエ(Place Ballet)」 という概念が元になってい ます。

「ボディ・バレエ」は「個 人」の体が空間を移動する 点が特徴です。私たちが日 常的に行う動作は習慣によ って引き起こされています が、その動きは仕事や趣味、 生活スタイル、宗教など人 それぞれの異なる習慣によ ってリズムが生まれます。 例えば決まった時間に起き て、決まった方法で出勤し、 決まった時間に帰宅するな どです。この動作は踊りの バレエ同様、決まった動き とリズムがあることから 「ボディ・バレエ」と名付 けられました。

「プレイス・バレエ」と は朝起きて会社へ出勤する などのボディ・バレエが、 特定の場所で長期間繰り返 され、特定のリズムが地域 から社会全体に広がること を言います。それによって 地域の特色が生まれ、人々 の間にも生活リズムという帰属感が生まれると言われ ています。 イベントにもこれらの概 念を取り入れることで、大 直と内湖のエリアに新たな 「ボディ・バレエ」が生ま れ、サラリーマンが出勤し て帰宅する以外の「プレイ ス・バレエ」が発生するこ とを期待しています。

これは多くの人たちに参 加してもらい、これまでと は違う新たな「都市」の特 色を探すという意味です。 二面性というのは裏表のよ うな意味ではなく、台北が 持つ様々な顔のことを指し ています。大直と内湖はテ クノロジーや商業発展の中 心地で、こうした特徴も一 つの台北の顔です。

大衆娯楽と芸術の垣 根を取り除く
今年度の「Nuit Blanche Taipei 」の芸術総監督は昨 年に引き続きニューヨークのファッション工科大学の修士号を持つ胡朝聖(フーチャオション)氏が担当します。

「Nuit Blanche Taipei 」は市民参加型という特徴を最も重視していて、地域住民のイベント参加の促進、ローカル的魅力の産出、市民の一体感を培うといったプレイス・バレエの発展が目的の一つです。

胡総監督は多くの人が参 加することで生活の中にお ける芸術作品を生み出し、 参加者たちが文化を形成す る制作者になることを願っ ています。

その例として、日本人ア ーティストの磯崎道佳氏が 企画したビニールで作るド ームがあります。参加者た ちはドームの中に入って好 きな装飾を施すことがで き、それによって一つの作 品が出来上がるという仕組 みです。参加者は芸術作品 の制作に携わることで、全 く違う角度から日常生活を 観察することができます。
▲磯崎道佳氏が考案したビニールのドームは人々が一緒に装飾をすることで 完成する参加型の作品です。

他にもオーストリアのア ーティスト、エルヴィン・ ヴルム( Erwin Wurm )氏 が企画した「一分間の彫刻」 という作品が MRT 剣南路 駅の広場で公開されます。 これはステージに予め木箱 や本、果物、服など生活用 品が設置されていて、観客 は木箱の上の紙に書かれた 指示に従い、特定の姿勢を1分間維持するという企画です。例えば、オレンジを3つ頭の上に乗せる、二人で一着のセーターを着るなどの指示に従うことで一つの彫像作品が完成します。
▲《一分間の彫刻》は日常にありふれた道具と観客が一つとなり完成す る作品です。
▲《一分間の彫刻》は日常にありふれた道具と観客が一つとなり完成す る作品です。

これは「双方向芸術」と呼ばれるもので、生活の中にある物を使い、観客一人一人が観察をしたり、観察される対象となることで成立します。形の無いものから芸術の一部を生み出す手法です。

今年のNuit Blanche Taipeiは大直と内湖の新たな特色を作り出す以外に、イベントの参加によって参加者と芸術の距離感が縮まり、「人類みな表現者」という現代アートの概念に一歩でも近づくことが目的です。観光で訪れる人にとってもいつもと少し違った台北の雰囲気を感じられる絶好の機会なので、ぜひこの機会に台北を訪れ、芸術的な空気を味わってみて下さい。
▲Nuit Blanche Taipei は形式にとらわれないため、ペットボトルさえ表現 の素材となります。

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