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台北で生きるムスリムたち (TAIPEI Quarterly 2020 春季号 Vol.19)

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発表日:2020-03-13

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TAIPEI #19 (2020 春季号)

台北で生きるムスリムたち
台北清真寺のイマームである趙錫麟博士が台北で生活や旅行するムスリムについて語る


文= Rick Charette
編集=下山敬之
写真= Yenyi Lin、Taiwan Scene,劉佳雯


今回は台湾のムスリムコミュニティの起源、増加するムスリムの活動、台北で生活するムスリム、旅行で台北を訪れるムスリムついて趙錫麟(チャオシーリン)博士にお話を伺いました。

趙錫麟博士は、イスラム教のモスクである台北清真寺でイマームという指導者の立場にあり、他にも中国回教協会チーフシャリーア・アドバイザー、国立交通大学の兼任教授といった複数の肩書を持っています。また、過去20年以上にわたり、台湾とリビア、中東を結ぶ外交官としても活躍してきました。

台北のイスラム教の歴史研究に力を注いできた趙博士は、私たちを台北清真寺へと案内してくださり、これまでの経験や台北のムスリム文化に関するお話を聞かせてくれました。▲台北清真寺はムスリムの集会所であるだけでなく、台北市における重要古蹟でもあります。

ムスリムの台湾移住
現在、台北には約6万人のムスリムが住んでいて、そのうち約90%が回族(イスラム教を信仰する中国の少数民族)だと趙博士は話します。台湾に住む外国人ムスリムは約15万人にのぼり、その多くは東南アジア出身です。台湾には11か所のモスクがあり、中でも台北清真寺は最古であり最大のモスクとなっています。

ムスリムの移住には3つの契機がありました。イスラム教が最初に台湾に伝わったのは、1660年代に国姓爺の名でも知られる鄭成功( ジェン・チェンゴン)をはじめとするムスリムが、オランダ人を島から追放した頃です。しかし、最終的にはその子孫たちも漢民族に同化してしまいました。

2回目の契機は 、1949年に国民党が中国共産党に敗れ台湾へ逃れた際です。約2万人のムスリムが台湾へ移住し、その多くが軍人か政府の職員として働きました。趙博士の祖父もその一人です。▲趙博士は自身の経験を交えて台北におけるムスリムの歴史と文化について話を聞かせてくれました。

3回目は1980年代で、タイとミャンマーからより良い生活を求める数千人のムスリムが移住してきました。その大半は、中国共産党の勝利によって各地へ逃れた国民革命軍兵の子孫たちです。新北市のMRT 南勢角( ナンシュージャオ) 駅付近にある華新街(ファシンジエ)は、ミャンマーをテーマにした飲食店やカフェ、ショップが立ち並ぶことから「リトルミャンマー」や「ミャンマー人街」として有名です。台北市にはこのようなムスリムが密集して居住する地域はありません。

台湾在住ムスリムの現状
イマームによると、台湾においてムスリムの差別被害はなく、台北清真寺の董長であり趙博士の親友でもある王保新(ワン・バオシン)さんもそれに同意します。台湾は地理的に「人類の交わる場所」であり、「異なる人種がお互いに手を取り、支え合うことを学んだ」と趙博士は話します。▲趙博士(右)と親友の王保新さん(左)は台北清真寺が建設される過程をその目で見てきました。

また、多くの台湾人はムスリムがムスリムということに気づいていない可能性があります。それは台湾の大多数を占める漢民族と台湾ムスリムが外見や習慣面において大きな差がなく、生活に溶け込んでいるためです。イスラム文化圏には、「自分の環境を作る」という哲学的な人生の方針があります。これは祈ることを他人に強要せず、自分にとって最適な環境を整え、人生の平和と調和を維持することを意味します。大切なのは、自分の信念に基づく内面の誠実さと個人がアッラーとどう向き合うかであり、他人にどう見えるかは重要ではありません。

今日、ムスリムに対して友好的な公共施設が増えていますが、これまで大きな問題は起きていません。その理由として「台湾の仏教徒はベジタリアンレストランに集まりますが、ムスリムはプライベートな場所に集まって一緒に食事を準備する傾向にあるためです。」と王董事長は話します。董事長は台北大学時代に台湾や世界中のイスラム教徒と一緒に過ごした経験があり、趙博士と市内の個人宅でイスラム教の戒律で許可された動物を屠殺し、その肉を調理したことを鮮明に覚えているそうです。

また、台北清真寺が正式に落成した際の誇らしい気持ちとその光景は、二人にとって忘れられない思い出です。1960年に落成したこの建物は、イスラム教の教義とアラビア建築様式に沿って建てられ、建物内部にはビザンチン様式も採用されています。また、梁を使用していない高さ15メートルのドーム型の屋根も特徴の一つです。千人収容できる礼拝スペースには、毎週金曜日の正午から午後1時15分の間ジュムア礼拝(金曜礼拝)のために多くのムスリムが訪れます。大安森林公園に面した新生南路にあるこの荘厳なモスクは、台湾のイスラム教を代表するシンボルとなっています。▲台北清真寺のドーム型の屋根はその精巧な作りから、高さ15mもありながら梁を必要としていません。

ムスリムに優しい 台北旅行
過去20年の間に、台北や台湾全土におけるムスリムの旅行環境は驚くほど充実したと趙博士は話します。近年、台湾はGMTI(世界ムスリム旅行指数)において、毎回非イスラム国の主要旅行先の1つに選ばれていて、旅行の安全面においてもトップクラスにランクしています。

台湾と台北の政府は、個人のDIY体験を重視するヨーロッパの旅行者とは対照的に、家族や友人との団体旅行を好むムスリム旅行者に注目しています。その施策として市政府は、東南アジアからの観光客を誘致する体系的なキャンペーンを通年実施している他、観光関連企業と共同でターゲットを絞ったパッケージ旅行やガイド付きツアーを開発しています。

他にも台湾政府は中国回教協会と協力し、ムスリムのために駅などの公共施設に礼拝室や儀式、簡単なお清めのできる場所の設置を進めています。台北最大の交通のハブである台北駅には、ムスリム旅行者や東南アジアからの外国人労働者向けの礼拝室が用意されているのもその例の一つです。▲台北のムスリムは頻繁に清真寺を訪れ、祈りを捧げて精神を落ち着かせます。

この他にも交通部観光局ではレストランの審査やホテルのハラール、ムスリムフレンドリー認証プログラムを実施し、ムスリム旅行者に認証済みのレストランやホテルの情報を開示しています。また、マディソン台北ホテルでは客室内に礼拝時間表と礼拝マットを準備し、礼拝の方角を示すQIBLAH表示を行っています。他にも台北の饒河街夜市や寧夏夜市、南機場夜市など主要な夜市の屋台で行っている「豚肉なし」や「ノンアルコール」といった表示も観光客向けの施策の一環です。

その一方で、海外ムスリムに人気の政府機関や病院、公園などの公共施設における設備拡張はまだまだ不十分です。趙博士は、ムスリム向けの設備が完備された既存施設はアクセスが不便である場合が多いため、迅速な対応が必要と話します。

趙博士オススメの1〜2日市内観光ツアー
趙博士によると、私たちの暮らすグローバル化した世界の中で、台湾を訪れるムスリムは世界を旅行する国際的な人たちが多く、彼らはムスリムが世界で直面する問題を超越するような知的体験を望んでいます。

そこでおすすめなのが自然愛好家向けの日帰りツアーです。台北は日帰りで郊外の高山や海を訪れ、さらに国家自然公園を直接観光できる世界的にも希少な都市の1つです。中でも陽明山上部にある陽明山国家公園は、鮮やかな季節の花の鑑賞や噴気孔のある七星山という休火山を鑑賞するなど様々な楽しみ方があります。山の中腹を下りたところにある北海岸はゴツゴツとした岩場が人気の撮影スポットになっていて、台北地下鉄から簡単にアクセスできる淡水の港町は、川沿いに広大なサイクリングロードがあります。▲陽明山国家公園はアウトドア活動が好きな人たちに最適な場所です。(写真/Taiwan Scene)

次におすすめなのは外国人旅行者向けの1日ツアーです。台湾及び台北の伝統的な宗教と民俗文化を学ぶなら、台北西部の賑やかな旧市場エリアにある艋舺龍山寺と大龍峒保安宮の2大中華寺院の訪問は欠かせません。大規模な中華寺院によく見られる形式ではありますが、どちらも参拝者の流れに沿って作られた夜市が近くにあります。ここでは、台湾の伝統的でありながら革新的な軽食が楽しめます。▲文化体験が好きな人は、趙博士がオススメする台北の寺廟訪問を通じて、台湾の信仰について学んでみましょう。(写真/劉佳雯)

これらの場所を訪れると、台北発展の「全体像」に関して無数の疑問が浮かびます。その答えを見つけるには台北の過去、現在、未来が複雑に交差している台北市庁舎内の台北探索館がおすすめです。

他にも趙博士はムスリム以外の人たちにも台北清真寺の訪問を推奨しています。 事前予約は必要ですが、多言語に対応したガイド付きグループツアーも行っています。また、タイミングが合えば、台北で毎年開催されているイード・アル=フィトル祭もおすすめです。台北のムスリムコミュニティを知る貴重なきっかけになりますし、集まる人の大半は非ムスリムの人たちです。市政府が大安公園で開催するこのお祭りは、世界中のムスリムたちによる掘り出し物を扱った市場や文化や習慣を紹介する野外講座が目玉となっています。▲清真寺の中には世界各国のムスリム旅行者から寄贈された数々の貴重な宝物が保管されています。

詳細情報
ムスリムフレンドリーのサービスに関する詳細情報は、台北市政府の公式ウェブサイト(travel.taipei/muslim)内にある「ムスリムフレンドリー台北」の項目と、観光局の公式ウェブサイ(eng.taiwan.net.tw) で閲覧できます。また、観光局では電子パンフレット「ムスリム向け台湾旅行ガイド」をオンラインで公開しているので、そちらもチェックしてみてください。

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