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多扶仮期:体が不自由な人向けの旅行サービス (TAIPEI Quarterly 2021 冬季号 Vol.26)

アンカーポイント

発表日:2021-12-10

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TAIPEI #26 (2021 冬季号)


多扶仮期
体が不自由な人向けの旅行サービス


文: Rick Charette
編集: 下山敬之
写真: Samil Kuo、Taiwan Scene、多扶仮期、台北市立天文科学教育舘


健常者にとって旅行はそれほど難しいことではありませんが、体が不自由な人にとってはそうではありません。体が不自由な方や移動が困難な人は旅行を控える傾向にあります。バリアフリーのシャトルサービス事業を展開している多扶仮期という企業はサービスを通して、体の不自由な方の多くが家族や友人との旅行を希望していることに気づきました。こうした顧客ニーズに応えるために多扶仮期CEOの許佐夫(シュー‧ズオフー)氏は、体が不自由な方を対象とした旅行代理店事業を開始したのです。

100814830_3322712611086731_2928884417009025024_n (Copy)▲多扶仮期は長年バリアフリーのサービスを提供し続けた経験から、あらゆる状況に対応可能のマニュアルを確立しました。(写真/多扶仮期)

限界突破

多扶仮期は台湾初の体が不自由な人向けの個人旅行会社です。「当社の送迎サービスはお客様のライフスタイルに変化をもたらしました。そこに旅行サービスを提供することで、自由を感じ、希望を持ってもらうことができます。体が不自由な方は人前に出るのが苦手で、家族や介護者に負担をかけたくないと考えている人が多いです。そのため、近場へ出かけるくらいしかしていない人が多くいます」と許氏は述べます。

政府も配車サービスを提供していますが、それらは一般的に自宅から病院の往復だけです。多扶仮期では台北各地の送迎や台湾全土、海外を対象とした旅行サービスを提供しています。プランはパック旅行を基本としながらも移動車両などのカスタマイズが可能です。「いずれの車両も広々としていて、車椅子にも対応しています。大人が立ち上がれるほど天井が高く、車椅子用のリフトも付いています。また、多様なニーズにお応えできる設備も揃っていますし、ご自宅や各旅行先、ホテル、レストランへの移動も承っております」と許氏は説明します。

多扶接送-15 (Copy)多扶接送-17 (Copy)▲介護者と被介護者がくつろぎながら旅行ができるように、多扶仮期では複数台の車椅子を収納できる高水準な送迎車を完備しています。

多扶仮期ではあらゆる状況に対応できるよう全従業員が訓練を受け、国の基準に則った専門的なマニュアルを作成しました。「体が不自由な人たちはそれぞれ状況が大きく異なります。ですが、当社が提供するパーソナライズされた介護サービスであれば、ご家族の方も安心してご依頼頂けますし、旅行中の負担も軽減できます」。

許氏は「参加された方々は家族旅行を楽しみにされていますし、旅行の後は家族の絆が深まる傾向にあります」と誇らしげに語ります。

使命感によって生まれた会社
多扶仮期が設立された背景には、ある不幸な出来事がありました。2008年に許氏の祖母が転倒し、車椅子での生活を余儀なくされたのです。「政府の提供する交通手段は病院など限られた範囲しか送迎をしてくれないので、私は自ら車を購入しました。それから他の人の送迎をするようになったことで現在のビジネスにつながりました」。

最初に行ったのは現在も運営している台湾初のリハビリ用のバスサービス事業でした。そこから旅行の手配をしてもらえないかという問い合わせが増えたことで旅行代理店業が始まります。「当社は2016年にライセンスを取得し、旅行会社として開業しましたが、その際に多額の投資が必要でした。例えば他社の旅行サイトを全てチェックし、提携することでリストを確保してきましたが、それには継続的な投資が不可欠なのです。加えて、スタッフ全員がお客様の目線に立ち、同じ体験をしなければ満足いただけるサービスは提供できません。そのためには柔軟なサービスが提供できるようトレーニングを行う必要もあります。また、これまでに数え切れないほどのクレームを受けましたが、それらを真摯に受け止めて成長をしてきました」と許氏は述べます。

多扶仮期の主要な顧客層は3つに分かれます。1つ目はシニアを対象とした旅行、2つ目は体が不自由な人を対象とした家族旅行、3つ目は障碍者雇用をしている企業、あるいは社員の中で体の不自由な家族を持つ人たちを対象とした社員旅行す。「台湾のの家庭が当社のサービスを必要としており、台湾企業の3〜5%が障碍者を雇用しています。台湾は世界でも有数の高齢化大国なので、私たちの活動には大きなニーズがあります」と許氏は言います。

多扶接送-4 (Copy)▲多扶仮期は体の不自由な人たちにも旅行する権利があることを知ってもらうためにサービスを提供しています。

台北のバリアフリー観光スポット

許氏によれば台北市はこの10〜20年の間に、観光名所やホテルなどのバリアフリー化が進んだそうです。例えば、台北101ビルの89階にある展望台のような比較的新しい施設では、音声案内付きの点字エレベーターやバリアフリーのトイレが設置されています。また、台北市立天文科学教育館ではシアターにアームレストやスロープ、車椅子用のバリアフリーシートを設けているほか車椅子の貸し出しも行っています。

教室無障礙座位 (Copy)▲台北市立天文科学館の教室や劇場には車椅子専用の座席があります。(写真/台北市立天文科学館)

許氏が考える多扶仮期の最も大きな功績は、台北や台湾全体における社会貢献だそうです。台北には数多くの観光スポットやアクティビティがありますが、多扶仮期のサービスによって、より多くの人がそういった場所へ足を運ぶ機会を得ました。

その中の1つに故宮博物院があります。台北北部に位置する故宮に中華帝国時代の美術品や工芸品が保存されている、台湾観光を象徴するスポットです。故宮はもともと車椅子での観覧が可能でしたが、多扶仮期のサービスのおかげで1日に10数カ国の観光客が訪れるようになりました。これによって車椅子用の設備があるだけでは不十分ということが明らかになったのです。「現在、故宮で行われるイベントなどは全て国連の条約に基づいて企画されています。例えば、目の不自由な方が感覚的に楽しめるような展示をする、目線が低い車椅子利用者の方でも鑑賞がしやすいようにするなどです」。

npm (Copy)▲台北にある故宮博物院は、車椅子の方も展示物を見られるようにショーケースを低めに設置するなどバリアフリーを取り入れた設計となっています。(写真/Taiwan Scene)

台湾は温泉大国でもあり、台北は北西部にある北投温泉や陽明山国立公園一帯に一流の温泉施設が集中しています。多扶仮期では東アジア初の温泉入浴の業務マニュアルを開発しました。「特別な訓練を受けた介護士が常にそばにいて入浴の介助や付き添いをします。当初は危険ではないかと批判を受けることもありましたが、温泉の中は水の浮力があることから陸上では難しいこともサービスとして提供することができました」と許氏は述べます。

中には40年以上も温泉に入っていないという人もいて、これまで想像もできなかった自由な感覚が体験でき、とても感動したという声が届いているそうです。また、パンデミック以前は英語と日本語によるサービスを提供していたため、毎年冬になると北米やヨーロッパ、日本から温泉を目当てに訪れる人たちが多くいました。

130301463_1075650126216250_7137730872276119368_n-Enhanced-edited (Copy)▲多扶仮期では体の不自由な方にも旅行の楽しさを体験していただくために、バリアフリーの旅行サービスを提供しています。(写真/多扶仮期)

許氏によれば台北101の近くにある松山文創園区、陽明山国立公園のすぐ近くにある陽明山米軍住宅は、どちらも移動が困難な人向けにデザインがされている施設だそうです。

松山文化創意園区は1937年に完成したタバコ工場の跡地で、現在は文化や芸術を発信する拠点として機能しています。歴史的な建造物を改修し、車椅子用のスロープや目が不自由な方のガイドなどを設置しているので、体の不自由な方でも自由に施設内が探索できます。また補助が必要な方やグループに向けたガイドツアーも行っているので安心です。

陽明山米軍宿舎群は1950年代に米軍の将校や顧問、それらの家族のために建てられた寮の跡地です。かつては100戸以上の住宅が並んでいましたが、現在は静かで快適な隠れ家的なスポットとなっています。ここは当時の調度品などを残したままリノベーションを行い、車椅子用のスロープやバスルームなどが追加されました。美軍俱楽部は、カフェやレストラン、展示ホールが一体となった空間です。こちらも全面床が平らになっているので、車椅子での移動が可能です。

陽明山美國村1-edited (Copy)▲陽明山にある米軍宿舎群は、体が不自由な方でも移動がしやすいフラットな構造をしたレジャー施設です。(写真/Taiwan Scene)

多扶仮期の報酬

「当社は非常に困難な道を歩み、多くの障害に直面してきました。そんな中で一番の収穫といえるのが、サービスを利用した方々が希望に溢れ、生きる力が戻っていく姿を見た瞬間です。自分たちがその一端を担えたことが何よりの報酬なのです。これまで14万人以上の方々にサービスを提供し、97%の方々にご満足を頂けたことを誇りに思っています」と許氏は言います。今後の多扶仮期の目標は、多くの団体と協力しながらモデルやアドバイザーの役割を果たし、台湾のバリアフリーサービスや環境を向上させることだそうです。

 

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