発表日:2022-09-22
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TAIPEI #29 (2022 秋季号)
無宿者に手を
友洗社創が創る新しい台北
文:Fuafu 編集:下山敬之 写真:Samil Kuo、Dinghan Zheng、友洗社創
「我々の判断基準が、人生における勤勉さ、真面目さ、努力、真剣さによってその人の人格を判断するのであれば、その人物がいかに尊敬に値するかを見ないわけにはいかない。」 — 小説《做工的人》(林立青著)より抜粋
ある土曜日の朝、MRT 西門駅6 番出口にある有名なストリートアート「6号彩虹」が美しい姿を取り戻しました。清掃会社である友洗社創では、様々な事情で住む場所を失った「無宿者」を雇用しています。職業訓練を通じて街や地域の清掃を行うことで、住む場所を持たない人たちへの偏見を払拭し、自信と尊厳を取り戻そうという信念からこうした取り組みが誕生しました。
▲友洗社創では清掃によって世間の無宿者たちに対する固定観念も洗い流したいと考えています。
無宿者との試み
友洗社創は、「労働者作家」と呼ばれる林立青(リン・リーチン)氏によって設立された企業です。10年以上、現場監督として働いてきた林氏は、2017年に小説《做工的人》を出版。労働者階級を相手にした自らの体験と観察に基づいた作品で、ドラマ化もされるなど、このデビュー作は高く評価されました。
林氏は小説の本質として、階級による不公平や労働者の権利の尊重についての洞察を熱く語っています。だからこそ、家を持たない人々が抱える物語や苦難にも注目したのです。2021年末、ひょんなことから、彼は働く意欲のある未就労者を導き、雇用者として自立の意思を再発見させる役割を担うことになりました。
「昨年のパンデミックの際、台北で最初に被害を受けたのは万華区の西門町でした。パートタイムの仕事が激減したことで、無宿者たちは仕事が見つからず、行き場を失うことになりました」と林氏は振り返ります。
パンデミックの間、臨時の配給所として運営していた万華のスイーツショップ「涼粉伯」では、営業が再開できるまで地域の清掃活動を行なっていて、林氏もその支援をしていました。その際、近所の無宿者たちが、清掃を手伝いたいと言ってきたのです。林氏は早速、彼らに掃除用具を渡して、清掃を手伝ってもらいました。彼らは清掃の経験がないにもかかわらず、とても熱心に取り組んでくれたと言います。
▲友洗社創のスタッフは天候に関わらず、大型の機具を扱って清掃を完了させます。
この時、林氏は無宿者たちをスタッフとして募り、プロの清掃サービスを提供する組織の設立は可能だろうか?とひらめきます。いくつかの場所で清掃活動を行なった結果、ある程度の収益が得られることがわかりました。それを従業員に還元するというシステムで、2021年末に「友洗社創」は誕生しました。
無宿者たちの家
長い歴史を持つ万華が、なぜ近年、無宿者たちの集う場所となったのでしょうか?かつてモンガ(艋舺)と呼ばれた万華は、台湾北部で最も早くから人々が定住した地域です。清朝時代、台湾経済の中心は徐々に北上していきました。特に淡水河の水運に恵まれた万華は、商業活動が盛んとなり、商人、船乗り、労働者が波止場に集まり、ここから多くのビジネスチャンスが生まれました。
しかし、その栄光は長くは続かなかったのです。日本時代、この川は深刻な土砂の堆積が問題となり、貨物輸送は川から陸へと移行せざるを得ず、商業の中心は万華から大稲埕へと移行しました。
万華は早くから開発が進んでいたため、次第に土地が過密化。さらに社会の変化に伴い、労働力や企業が流出してしまったのです。加えて外国人労働者の影響や初期の万華に集まっていた労働者の高齢化が進んだことで、市場での競争力を失い、派遣労働に頼らなければ生きていけない状態となりました。台北駅からほど近く、開放的な公共空間を備える万華は、こうして経済的に恵まれない人々や無宿者の溜まり場となっていったのです。これらの問題に対し、政府系、非政府系の社会福祉団体でもケアサービスを徐々に始めています。
「本当に運の悪い人たち、そういう宿命を持つ人たちがいます」と林氏は言います。家を失った理由は複雑ですが、彼らは万華における人と人とのつながりや細やかなケアに安らぎを感じているのです。実際、いくつかのお店では理解や連帯感を示してくれています。例えば、前述の涼粉伯や社会福祉団体では、パンデミックが広がらないように防疫用品を提供するなどして、地域が正常な状態へと戻るよう支援をしました。
▲ (写真/Dinghan Zheng)
▲創業者である林立青氏は著名な作家でありながら、清掃の仕事の際には自ら率先して実務をこなします。 (写真/Samil Kuo)
友洗社創は、無宿者の人々に仕事のリズムを掴んでもらい、高圧洗浄機などの操作に慣れてもらうことを目的とし、万華にて設立されました。当初は、12人のスタッフがプロの指導を受けながら仕事をしていました。スタッフの入れ替わりや学習上の障害は避けられませんが、今年3月の研修開始以来、6名が自立して活動できるようになりました。
「私にできることは、仕事の機会を提供することです。肉体労働はやはり大変ですが、きっとやりがいがあります」。林氏は、自分の理想を貫き、家を持たない人々が生きていくためのスキルを身につける手助けをしたい、と話します。
▲林立青氏は無宿者たちが職業訓練を通じて、自活できるようになってほしいと願っています。(写真/ 友洗社創)
クリーンな環境が社会的アイデンティティを取り戻す
設立から8ヶ月、友洗社創は主に「紀州庵文学森林」や「剥皮寮歴史街区」などの芸術文化施設や宗教施設、屋台、店舗などの床を清掃し、多くのマイルストーンを築き上げてきました。その他にも、台湾北部の小中学校10 校を清掃して安全基準の維持に尽力したり、月経衛生デーには大稲埕霞海城隍廟の境内をNPO法人「小紅帽」とともに清掃したりと、その功績は計り知れません。
▲紀州庵文学森林などの観光スポットでは、友洗社創のサービスを利用して無宿舎に働く機会を提供し、同時に台北市内をキレイにしています。(写真/ 友洗社創)
また、友洗社創では死者が出た現場の清掃や故人の住宅の修復など、特殊清掃も請け負っています。「故人の住宅の清掃は、消毒や清掃の手順に細心の注意を払わなければならず、臭いを我慢する必要もあります」と林氏も言うように、その過酷さがうかがい知れます。
一方、林氏にとって最も忘れられない体験は、4月に万華の啟天宮で行われた祭典の行列に参加したことだと言います。ピンクのユニフォームに身を包んだ友洗社創のスタッフは、媽祖のパレードの後方で爆竹のゴミや埃を清掃することが役割でした。これは多くのスタッフにとって、神々に対する奉仕であると同時に、神々の恩恵に報いる行為でもあったのです。
また、登録者100万人以上の有名YouTuber 「Mimosa Go(含羞草日記)」と一緒に清掃を行うなど、充実したスケジュールとなりました。その結果、無宿者は世間から注目され、地域社会の一員として受け入れられるようになり、それまでの拒絶や批判を受ける状況から一変、自信と認知を高めることができるようになったのです。
「清掃の成果をスタッフに再確認させることは重要です」と林氏は言います。台北の寺院や公共の場を清掃した後に、スタッフ全員が自分たちの清掃した場所がきれいな状態かを確認し、必要があれば率先してもう一度清掃することでピカピカの状態を維持する場合もあります。
特に西門町の「6号彩虹」は、無宿者たちに雇用機会を創出し、生活スタイルを見直す機会を与えるなど多くの恩恵をもたらしたことから、感謝の気持ちを込めて友洗社創が清掃を担当しました。多くの学校や施設では、清掃終了後、感謝の気持ちを込めてスタッフたちに感謝状が贈られます。これによって、彼らは社会的に受け入れられている感覚を取り戻すことができるのです。
自己価値の創造
▲友洗社創では無宿者たちが一般社会に馴染めるように、一般の人たちを招いて清掃体験を実施しています。
友洗社創のスタッフは、大変な人生を歩んできた一方で、社会から必要とされたいという気持ちも持ち合わせています。彼らは仕事を通じて自立し、清掃に意味を見出し、自立していく力があることを少しずつ証明してきました。まだ倉庫の移転や不安定な業務量など多くの課題を抱えていますが、林氏はもっと多くの社会福祉団体にそのポジティブなエネルギーを広げたいと考えています。最近では、同じく万華で生まれ、無宿者の自立を支援する台湾芒草心慈善協会に、清掃用具の一部を貸与しました。また、友洗社創は台湾芒草心慈善協会が設けた研修会に参加し、無宿者たちに作業の手順ややるべきことを指導し、負担なく仕事が始められるようサポートしています。
「とやかく言う人はたくさんいますが、大事なのは何を言うかではなく、何をやるかです」と林氏は言います。彼の行動には、無宿者たちを支援したいという思いと彼らの労働に対する尊敬の念が現れています。恵まれない人々が社会に貢献し、偏見や差別を払拭し、再び社会から受け入れられるための機会を提供すること。そのための具体的な解決策を講じることこそが、ソーシャルイノベーションの価値です。友洗社創はこれからも良い仕事を続け、小さな積み重ねの偉大さを証明していくことでしょう。
無宿者に手を
友洗社創が創る新しい台北
文:Fuafu 編集:下山敬之 写真:Samil Kuo、Dinghan Zheng、友洗社創
「我々の判断基準が、人生における勤勉さ、真面目さ、努力、真剣さによってその人の人格を判断するのであれば、その人物がいかに尊敬に値するかを見ないわけにはいかない。」 — 小説《做工的人》(林立青著)より抜粋
ある土曜日の朝、MRT 西門駅6 番出口にある有名なストリートアート「6号彩虹」が美しい姿を取り戻しました。清掃会社である友洗社創では、様々な事情で住む場所を失った「無宿者」を雇用しています。職業訓練を通じて街や地域の清掃を行うことで、住む場所を持たない人たちへの偏見を払拭し、自信と尊厳を取り戻そうという信念からこうした取り組みが誕生しました。
無宿者との試み
友洗社創は、「労働者作家」と呼ばれる林立青(リン・リーチン)氏によって設立された企業です。10年以上、現場監督として働いてきた林氏は、2017年に小説《做工的人》を出版。労働者階級を相手にした自らの体験と観察に基づいた作品で、ドラマ化もされるなど、このデビュー作は高く評価されました。
林氏は小説の本質として、階級による不公平や労働者の権利の尊重についての洞察を熱く語っています。だからこそ、家を持たない人々が抱える物語や苦難にも注目したのです。2021年末、ひょんなことから、彼は働く意欲のある未就労者を導き、雇用者として自立の意思を再発見させる役割を担うことになりました。
「昨年のパンデミックの際、台北で最初に被害を受けたのは万華区の西門町でした。パートタイムの仕事が激減したことで、無宿者たちは仕事が見つからず、行き場を失うことになりました」と林氏は振り返ります。
パンデミックの間、臨時の配給所として運営していた万華のスイーツショップ「涼粉伯」では、営業が再開できるまで地域の清掃活動を行なっていて、林氏もその支援をしていました。その際、近所の無宿者たちが、清掃を手伝いたいと言ってきたのです。林氏は早速、彼らに掃除用具を渡して、清掃を手伝ってもらいました。彼らは清掃の経験がないにもかかわらず、とても熱心に取り組んでくれたと言います。
この時、林氏は無宿者たちをスタッフとして募り、プロの清掃サービスを提供する組織の設立は可能だろうか?とひらめきます。いくつかの場所で清掃活動を行なった結果、ある程度の収益が得られることがわかりました。それを従業員に還元するというシステムで、2021年末に「友洗社創」は誕生しました。
無宿者たちの家
長い歴史を持つ万華が、なぜ近年、無宿者たちの集う場所となったのでしょうか?かつてモンガ(艋舺)と呼ばれた万華は、台湾北部で最も早くから人々が定住した地域です。清朝時代、台湾経済の中心は徐々に北上していきました。特に淡水河の水運に恵まれた万華は、商業活動が盛んとなり、商人、船乗り、労働者が波止場に集まり、ここから多くのビジネスチャンスが生まれました。
しかし、その栄光は長くは続かなかったのです。日本時代、この川は深刻な土砂の堆積が問題となり、貨物輸送は川から陸へと移行せざるを得ず、商業の中心は万華から大稲埕へと移行しました。
万華は早くから開発が進んでいたため、次第に土地が過密化。さらに社会の変化に伴い、労働力や企業が流出してしまったのです。加えて外国人労働者の影響や初期の万華に集まっていた労働者の高齢化が進んだことで、市場での競争力を失い、派遣労働に頼らなければ生きていけない状態となりました。台北駅からほど近く、開放的な公共空間を備える万華は、こうして経済的に恵まれない人々や無宿者の溜まり場となっていったのです。これらの問題に対し、政府系、非政府系の社会福祉団体でもケアサービスを徐々に始めています。
「本当に運の悪い人たち、そういう宿命を持つ人たちがいます」と林氏は言います。家を失った理由は複雑ですが、彼らは万華における人と人とのつながりや細やかなケアに安らぎを感じているのです。実際、いくつかのお店では理解や連帯感を示してくれています。例えば、前述の涼粉伯や社会福祉団体では、パンデミックが広がらないように防疫用品を提供するなどして、地域が正常な状態へと戻るよう支援をしました。
友洗社創は、無宿者の人々に仕事のリズムを掴んでもらい、高圧洗浄機などの操作に慣れてもらうことを目的とし、万華にて設立されました。当初は、12人のスタッフがプロの指導を受けながら仕事をしていました。スタッフの入れ替わりや学習上の障害は避けられませんが、今年3月の研修開始以来、6名が自立して活動できるようになりました。
「私にできることは、仕事の機会を提供することです。肉体労働はやはり大変ですが、きっとやりがいがあります」。林氏は、自分の理想を貫き、家を持たない人々が生きていくためのスキルを身につける手助けをしたい、と話します。
クリーンな環境が社会的アイデンティティを取り戻す
設立から8ヶ月、友洗社創は主に「紀州庵文学森林」や「剥皮寮歴史街区」などの芸術文化施設や宗教施設、屋台、店舗などの床を清掃し、多くのマイルストーンを築き上げてきました。その他にも、台湾北部の小中学校10 校を清掃して安全基準の維持に尽力したり、月経衛生デーには大稲埕霞海城隍廟の境内をNPO法人「小紅帽」とともに清掃したりと、その功績は計り知れません。
また、友洗社創では死者が出た現場の清掃や故人の住宅の修復など、特殊清掃も請け負っています。「故人の住宅の清掃は、消毒や清掃の手順に細心の注意を払わなければならず、臭いを我慢する必要もあります」と林氏も言うように、その過酷さがうかがい知れます。
一方、林氏にとって最も忘れられない体験は、4月に万華の啟天宮で行われた祭典の行列に参加したことだと言います。ピンクのユニフォームに身を包んだ友洗社創のスタッフは、媽祖のパレードの後方で爆竹のゴミや埃を清掃することが役割でした。これは多くのスタッフにとって、神々に対する奉仕であると同時に、神々の恩恵に報いる行為でもあったのです。
また、登録者100万人以上の有名YouTuber 「Mimosa Go(含羞草日記)」と一緒に清掃を行うなど、充実したスケジュールとなりました。その結果、無宿者は世間から注目され、地域社会の一員として受け入れられるようになり、それまでの拒絶や批判を受ける状況から一変、自信と認知を高めることができるようになったのです。
「清掃の成果をスタッフに再確認させることは重要です」と林氏は言います。台北の寺院や公共の場を清掃した後に、スタッフ全員が自分たちの清掃した場所がきれいな状態かを確認し、必要があれば率先してもう一度清掃することでピカピカの状態を維持する場合もあります。
特に西門町の「6号彩虹」は、無宿者たちに雇用機会を創出し、生活スタイルを見直す機会を与えるなど多くの恩恵をもたらしたことから、感謝の気持ちを込めて友洗社創が清掃を担当しました。多くの学校や施設では、清掃終了後、感謝の気持ちを込めてスタッフたちに感謝状が贈られます。これによって、彼らは社会的に受け入れられている感覚を取り戻すことができるのです。
自己価値の創造
友洗社創のスタッフは、大変な人生を歩んできた一方で、社会から必要とされたいという気持ちも持ち合わせています。彼らは仕事を通じて自立し、清掃に意味を見出し、自立していく力があることを少しずつ証明してきました。まだ倉庫の移転や不安定な業務量など多くの課題を抱えていますが、林氏はもっと多くの社会福祉団体にそのポジティブなエネルギーを広げたいと考えています。最近では、同じく万華で生まれ、無宿者の自立を支援する台湾芒草心慈善協会に、清掃用具の一部を貸与しました。また、友洗社創は台湾芒草心慈善協会が設けた研修会に参加し、無宿者たちに作業の手順ややるべきことを指導し、負担なく仕事が始められるようサポートしています。
「とやかく言う人はたくさんいますが、大事なのは何を言うかではなく、何をやるかです」と林氏は言います。彼の行動には、無宿者たちを支援したいという思いと彼らの労働に対する尊敬の念が現れています。恵まれない人々が社会に貢献し、偏見や差別を払拭し、再び社会から受け入れられるための機会を提供すること。そのための具体的な解決策を講じることこそが、ソーシャルイノベーションの価値です。友洗社創はこれからも良い仕事を続け、小さな積み重ねの偉大さを証明していくことでしょう。
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