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台北に住む日本人ジャーナリスト (TAIPEI Quarterly 2022 冬季号 Vol.30)

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発表日:2022-12-29

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TAIPEI #30 (2022 冬季号)


台北に住む日本人ジャーナリスト
文:Tina Teng、 Genie Zheng 編集:下山敬之  写真:George Zhan、Taiwan Scene

近年、日本のメディアで台北に関する事柄が取り上げられる機会が増えています。例えば、大稲埕が人気女性誌の表紙を飾ったり、台北の旅行や文化をテーマにした書籍が出版されたり、台北で撮影されたドラマや映画が紹介されるなど、日本人の台北に対する関心は高まっています。

それと同時に、台北を生活拠点とする日本人も増えていて、自身が触れた現地の文化や生活に関する情報を日本の人たちに発信し続けています。フリージャーナリストをしている近藤弥生子さんもその一人。東京で雑誌の編集をしていた彼女は、日台交流における第一人者です。

_79A2848-2 (Copy)▲フリージャーナリストの近藤さんは家族と台北に住んでいます。過去の仕事経験を生かし、 台湾の最新情報を日本へ発信しています。

日常生活からインスピレーション
10年前に台北に引っ越してきた近藤さんは、それまで一度も台湾へ来たことがありませんでした。当時は地理的に近いことから台湾と香港は似たようなものだと思っていたそうです。それが今では、ライフスタイルに関する日本の雑誌『&Premium』や『Pen』で台湾に関する様々なコラムを執筆しています。今ではすっかり「台湾化」していると話す近藤さんは、台北の第一印象についてこう振り返ります。

「私が初めて台北に来たのは妊娠中で、つわりがひどい状態でした。なので、コンビニに入った時の茶葉蛋(香辛料で煮込んだ台湾風煮卵)の匂いがキツくて大変でした」と笑います。「でも今はもう慣れましたし、茶葉蛋の匂いも好きになりました。今振り返ってみると、東京で働いていた時は匂いが迷惑になるからと、マクドナルドのハンバーガーなど匂いのキツイ食べ物は持ち込み禁止というルールがあって面白かったですね。それに対して台湾は制限が少なく、自由だなと思います」と近藤さんは話します。

台北のいくつかの地区で暮らした近藤さんは、現在大安区に住んでいます。仁愛路と敦化南路の並木道は彼女の朝の散歩コースです。「こうした緑豊かな環境におけるちょっとした散歩で、インスピレーションが湧いてくるんです」と話す近藤さん。その反面、台北は車やスクーターの交通量が多く、交通事故のリスクは日本より起きやすいです。それでも台北ではYouBike などのレンタサイクルが多く設置されたり、バス停の表示が太陽光発電に変わるなど変化が見られます。

IMG_2627-2 (Copy)▲並木道が続く敦化南路の大通りは、日差しが楽しめるだけでなく、ひらめきを与えてくれる場所です。

これに対して近藤さんは「台北はどんどん環境にやさしい街になってきています」と話します。「それだけでなく、台北はショッピングの選択肢や自然に触れられる機会も多いので、非常に便利な街です」と彼女は続けます。近藤さんは普段、信義区にある永春市場で食材の買い物をします。市場には有機野菜や放牧した鶏を販売するお店、そして出来たての料理を提供する屋台などがたくさんあります。この他にも富陽自然生態公園は彼女のお気に入りのスポット。自然の生態系がしっかりと保存されている場所なので、よく家族を連れてここを訪れ、自然と触れ合っています。

A20220507_151857-2 (Copy)▲新鮮な野菜や果物がリーズナブルな価格で提供されている永春市場は、近藤さんのお気に入りスポットです。( 写真 / Taiwan Scene )

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▲富陽自然生態公園は生態系がしっかり保存されていることから、小さな森のような雰囲気をしています。( 写真 / Taiwan Scene )

日本と台湾
フリージャーナリストとして活動している近藤さんは、台湾と日本は地理的に近いことから、文化や考え方、価値観が似ていると言います。例えば、男女同権や少子高齢化は台湾と日本が共通して関心を寄せていますし、お互いに理解がしやすいテーマです。また、首都圏である台北では情報の伝達が速いため、ここに拠点を構えることで読者や視聴者からのフィードバックを素早く受けることができると近藤さんは言います。

_79A2920-1-2 (Copy)▲近藤さんは台北や台湾を紹介するため、自らで情報収集そして取材に行きます。

「仕事柄、様々な情報を集めなければいけませんが、インターネットを介した情報収集はあまり好きではありません。バスに乗ったり、歩いたり、自分の目で見て、新しい話題を見つけることが好きなんです」。台北には様々なライフスタイルやトレンドがあり、クリエイティブなエネルギーに溢れています。「小規模でも素晴らしいイベントやワークショップはたくさんあるので、それらを通して異なるバックグランドや興味を持っている人たちと交流することができます」と近藤さんは語ります。

IMG_4423 (Copy)▲近藤さんはよく台湾や日本の出版業界について話しています。

例えば、近藤さんは華山1914文化創意産業園区で開催された「華文朗読節(読書祭)2020」で、『おおきな木(村上春樹訳)』の朗読を行いました。「リスナーは全員台湾人でしたが、皆さんが熱心に耳を傾けてくだったので、本当に感動しました」。編集者であった経験から日本と台北のオフィス文化を比較すると、台北は柔軟性とクリエイティビティに富み、反対に日本は準備に時間を多くかけるものの計画通りに仕上げると近藤さんは考えます。対照的な文化ではありますが、双方にそれぞれの強みがあるそうです。また、日本の編集者は基本的に朝8時に出社し、昼にランチミーティングを開いて、夜11時まで仕事が終わらないのが普通と近藤さんは教えてくれました。「悪魔は細部に宿る」と信じる日本人は、確認に確認を重ねる傾向があります。ですが、近年は出版業界の不況もあり、その傾向は弱まりつつあるそうです。

人間味に満ちた大都市
デジタル発展部大臣であるオードリー・タンに関する書籍で、3冊のベストセラーを生み出した近藤さんは、オードリー氏に10年間の台北生活で感じたことを訪ねたことがあるそうです。「台湾の人はなぜ政治活動に熱心で、時間を惜しまなく割くのかと訪ねたところ、台湾の人は〈鶏婆(世話焼き)〉 の精神を持っているからだと返ってきました。

_79A2997 (Copy)▲近藤さんは台湾のデジタル発展部大臣のオードリー・タンに関する本を3 冊出版し、ベストセラーを獲得。

その時は言葉の意味が分からなかったのですが、少しずつ理解できるようになってからは、鶏婆の精神は素晴らしいと思うようになりました。台北はこの精神があるからこそ、国際的な大都市にも関わらず人間味に溢れているのです」と近藤さんは言います。

近藤さんから見ると、台北の人たちのライフスタイルは実に面白いそうです。日本では、トラブルを避けるために人と距離を置くのが常識ですが、こうした距離感は時に疎外感を生みます。それに対して台北の人たちは、鶏婆の精神によってぬくもりをもたらしてくれます。

鶏婆の大切さを実感した近藤さん。彼女は現在、本当の意味で鶏婆の精神を体現している〈オバサン〉を題材とした本の執筆に取り掛かっています。彼女の願いは、日本の人たちが台湾の人たちが持つ情熱をより深く理解し、お互いの強みを学び合うことです。

「日本は台湾から学ぶことがいっぱいあります!」と、近藤さんは目を輝かせて話してくれました。

 

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