発表日:2017-03-27
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焦桐さんが案内する
華西街の幸せスイーツ
文/焦桐 写真/焦桐、楊智仁
貴陽街に近い華西街の一帯、そこはかつて劇場「芳明館」と遊郭が並ぶ最もにぎやかな場所でした。今はいかにもわびしい雰囲気なのは、おそらくMRT龍山寺駅から少し遠いせいでしょう。ほとんどの観光客はこの華西街の端まで来ないのです。「阿猜嬤甜湯」の前もさびれて人や車の往来はほとんどありません。まだ席に座って注文もしていないのに、おかみさんに「あなたは焦桐さんですか?」と声をかけられました。お店を始めた阿猜おばあちゃんは認知症を患い、息子の柯得隆さん夫妻が店を引き継いでいます。彼らが私の読者で、著書を何冊か買ってくれていたなんて思いもよりませんでした。

▲ 「阿猜嬤甜湯」の米糕桂円粥(もち米とリュウガンのお粥)油条(揚げパン)のせ(写真/焦桐)
阿猜嬤甜湯の秘密の食べ方
阿猜嬤甜湯の品数は多くありません。メニューは木板に書かれて、屋台の前に掛けてあります。紅豆湯(お汁粉)、花生湯(ピーナッツのスープ)、湯円(お団子)、冰糖白木耳蓮子湯(シロキクラゲと蓮の実のスープ)などで、これらを合わせて別の一品にすることもできます。私は米糕桂円粥(もち米とリュウガンのお粥)をひとつ頼みました。リュウガンがお粥の中に顔を出し、2つの食材の相性はぴったりです。これは丸い形をした品種のもち米を煮て作った甘いお粥で、ただ甘いだけでなく干したリュウガンと赤砂糖が甘みを奥深いものにし、ある種の幸福感を醸し出しています。もち米が干したリュウガンとからまりあい、相手の果肉の香りを十分吸収して褐色に染まり、両者が一体となってとても仲睦まじい表情を見せています。
▲ 北港甜湯の味わい深い焼き餅(写真/楊智仁)
半分食べたところで、ご主人が油条(揚げパン)を切ってお粥に2つ入れ、どうぞ味わってみてくださいと言いました。やっぱり素晴らしい。冴えない冷めた揚げパンがお椀の中で仕上げの役割を果たして、お粥の食感を一瞬で変えてしまいました。第三者の揚げパンがお粥の間に入り込んで、油っぽい香りでもち米とリュウガンの仲を壊してしまうかと思いましたが、まさか温かな愛情が生まれるとは。甘みは弱まり、抑えきない酒の香りがさらに引き出されたのでした。
もち米のお粥に揚げパンを入れるのは南部ならではの食べ方です。この魅力的なお粥は、とくに寒い冬に大切な人と一緒にふうふう言いながら食べるのにぴったりです。幸せがお椀からあふれ出しているようで、外がどんなに寒くても家の中には温かさと信頼に満ちてきます。
あの大きな鍋に作られたもち米とリュウガンのお粥が売れ残ったら、凍らせてアイスキャンディーにするといいだろうなと思います。もうすぐ食べ終わるという時、またご主人はお汁粉をひとすくい私にくれました。もち米とリュウガンのお粥にお汁粉が入ると、美味しいだけでなく新しい恋人に出会ったような喜びが生まれました。お会計はいくらですか?と聞いたら、60台湾元だけどおまけして40台湾元でいいよ、と言われました。屋台で読者に出会い、美味しい食べ物を楽しみ、おまけまでしてもらって、お店を去る道すがら歌を歌いたい気分でした。
甘いスープで
庶民の生活を知る

▲ 三六円仔店のピーナッツスープ(写真/楊智仁)
阿猜おばあちゃんの店から50メートルほど行くと、華西街にもう一軒「北港甜湯」というぜひ立ち寄りたい店があります。もち米のお粥、芋頭湯(タロイモのスープ)、焼麻糬(焼き餅)などどれも味わい深いです。さらにここから遠くない艋舺公園の傍らには「三六円仔店(粿店)」(「粿」は米で作った餅やお菓子などのこと)があり、餡入りの焼き餅が売られています。ピーナッツのスープに「凸餅(皮が薄くて硬く、中が空洞になっているまんじゅう)」を入れても美味しいです。この中には麦芽糖が入っていて、ピーナッツのスープに入れるとお互いが溶け合ってまた格別な風味が生まれ、庶民の生活の香りで満たされます。各種の甘いスープの他にも、かつての農業社会で流行した「紅亀粿(お祝いで使用する赤く染めた亀形の餅)」、「冥頭粿(葬式で使う餅)」、「寿桃(誕生祝いに使う桃まんじゅう)」、「鳳片糕(寺のお供えに使う餅)」、「鳳眼糕(お茶受けの砂糖菓子)」などが売られていて、一口食べれば、水牛、人力車、会社、喫茶部、菓子店、女紅場(女子に読み書きや裁縫などを教えた場所)、検場(料亭、芸者、待合業者が集まる事務所)…たちまち懐かしい時代へ立ち返るようです。
本文は台北市観光伝播局の書籍『味道台北旧城区(台北下町の味)』からの抜粋です。台北の歴史と発展とともに移り変わってきた伝統的な小吃(軽食)。台北の下町ならではの味をグルメを研究して10年以上になる作家・焦桐さんが暖かく優しい文章で紹介します。この書籍執筆のために焦桐さんは艋舺、大稲埕、大龍峒などにある100以上の店を半年かけて訪れ、その中から167軒の店を厳選しました。旅人を台北の懐かしい味の探索へと誘います。
『味道台北旧城区』(台北下町の味)
焦桐著/定価250台湾元/誠品書店、金石堂、博客来など台湾全土の大型書店、ネット書店で購入できます
華西街の幸せスイーツ
文/焦桐 写真/焦桐、楊智仁
貴陽街に近い華西街の一帯、そこはかつて劇場「芳明館」と遊郭が並ぶ最もにぎやかな場所でした。今はいかにもわびしい雰囲気なのは、おそらくMRT龍山寺駅から少し遠いせいでしょう。ほとんどの観光客はこの華西街の端まで来ないのです。「阿猜嬤甜湯」の前もさびれて人や車の往来はほとんどありません。まだ席に座って注文もしていないのに、おかみさんに「あなたは焦桐さんですか?」と声をかけられました。お店を始めた阿猜おばあちゃんは認知症を患い、息子の柯得隆さん夫妻が店を引き継いでいます。彼らが私の読者で、著書を何冊か買ってくれていたなんて思いもよりませんでした。
▲ 「阿猜嬤甜湯」の米糕桂円粥(もち米とリュウガンのお粥)油条(揚げパン)のせ(写真/焦桐)
阿猜嬤甜湯の秘密の食べ方
阿猜嬤甜湯の品数は多くありません。メニューは木板に書かれて、屋台の前に掛けてあります。紅豆湯(お汁粉)、花生湯(ピーナッツのスープ)、湯円(お団子)、冰糖白木耳蓮子湯(シロキクラゲと蓮の実のスープ)などで、これらを合わせて別の一品にすることもできます。私は米糕桂円粥(もち米とリュウガンのお粥)をひとつ頼みました。リュウガンがお粥の中に顔を出し、2つの食材の相性はぴったりです。これは丸い形をした品種のもち米を煮て作った甘いお粥で、ただ甘いだけでなく干したリュウガンと赤砂糖が甘みを奥深いものにし、ある種の幸福感を醸し出しています。もち米が干したリュウガンとからまりあい、相手の果肉の香りを十分吸収して褐色に染まり、両者が一体となってとても仲睦まじい表情を見せています。
▲ 北港甜湯の味わい深い焼き餅(写真/楊智仁)
半分食べたところで、ご主人が油条(揚げパン)を切ってお粥に2つ入れ、どうぞ味わってみてくださいと言いました。やっぱり素晴らしい。冴えない冷めた揚げパンがお椀の中で仕上げの役割を果たして、お粥の食感を一瞬で変えてしまいました。第三者の揚げパンがお粥の間に入り込んで、油っぽい香りでもち米とリュウガンの仲を壊してしまうかと思いましたが、まさか温かな愛情が生まれるとは。甘みは弱まり、抑えきない酒の香りがさらに引き出されたのでした。
もち米のお粥に揚げパンを入れるのは南部ならではの食べ方です。この魅力的なお粥は、とくに寒い冬に大切な人と一緒にふうふう言いながら食べるのにぴったりです。幸せがお椀からあふれ出しているようで、外がどんなに寒くても家の中には温かさと信頼に満ちてきます。
あの大きな鍋に作られたもち米とリュウガンのお粥が売れ残ったら、凍らせてアイスキャンディーにするといいだろうなと思います。もうすぐ食べ終わるという時、またご主人はお汁粉をひとすくい私にくれました。もち米とリュウガンのお粥にお汁粉が入ると、美味しいだけでなく新しい恋人に出会ったような喜びが生まれました。お会計はいくらですか?と聞いたら、60台湾元だけどおまけして40台湾元でいいよ、と言われました。屋台で読者に出会い、美味しい食べ物を楽しみ、おまけまでしてもらって、お店を去る道すがら歌を歌いたい気分でした。
甘いスープで
庶民の生活を知る
▲ 三六円仔店のピーナッツスープ(写真/楊智仁)
阿猜おばあちゃんの店から50メートルほど行くと、華西街にもう一軒「北港甜湯」というぜひ立ち寄りたい店があります。もち米のお粥、芋頭湯(タロイモのスープ)、焼麻糬(焼き餅)などどれも味わい深いです。さらにここから遠くない艋舺公園の傍らには「三六円仔店(粿店)」(「粿」は米で作った餅やお菓子などのこと)があり、餡入りの焼き餅が売られています。ピーナッツのスープに「凸餅(皮が薄くて硬く、中が空洞になっているまんじゅう)」を入れても美味しいです。この中には麦芽糖が入っていて、ピーナッツのスープに入れるとお互いが溶け合ってまた格別な風味が生まれ、庶民の生活の香りで満たされます。各種の甘いスープの他にも、かつての農業社会で流行した「紅亀粿(お祝いで使用する赤く染めた亀形の餅)」、「冥頭粿(葬式で使う餅)」、「寿桃(誕生祝いに使う桃まんじゅう)」、「鳳片糕(寺のお供えに使う餅)」、「鳳眼糕(お茶受けの砂糖菓子)」などが売られていて、一口食べれば、水牛、人力車、会社、喫茶部、菓子店、女紅場(女子に読み書きや裁縫などを教えた場所)、検場(料亭、芸者、待合業者が集まる事務所)…たちまち懐かしい時代へ立ち返るようです。
本文は台北市観光伝播局の書籍『味道台北旧城区(台北下町の味)』からの抜粋です。台北の歴史と発展とともに移り変わってきた伝統的な小吃(軽食)。台北の下町ならではの味をグルメを研究して10年以上になる作家・焦桐さんが暖かく優しい文章で紹介します。この書籍執筆のために焦桐さんは艋舺、大稲埕、大龍峒などにある100以上の店を半年かけて訪れ、その中から167軒の店を厳選しました。旅人を台北の懐かしい味の探索へと誘います。
焦桐著/定価250台湾元/誠品書店、金石堂、博客来など台湾全土の大型書店、ネット書店で購入できます
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