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TAIPEI 2016春季号 Vol.03—台北で 人形劇とともに生きる ロビン・ルイゼンダールさんに聞く

アンカーポイント

発表日:2016-06-16

更新日:2016-09-23

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文 _ Cheryl Robbins
写真 _ 李開明

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▲オランダ出身のロビン・ルイゼンダール博士は台北を拠点として活動する人形劇の専門家です。
迪化街と大稲埕碼頭に挟まれた西寧北路にある、幅の狭い歴史ある建物の入り口をくぐり、すり減ってはいるけれど黒く磨かれた木製の床に足を踏み入れます。左側の開かれた空間には、人形師がその技を披露する小さく散らかった工房があります。そして細い木造の階段が展示エリアへと繋がっています。ここは「台原亜洲偶戯博物館」です。隣接する「納豆劇場」は子どもたちの笑い声と歓声が聞こえ、生き生きとした雰囲気です。ロビン・ルイゼンダール博士はいつもここを動き回っています。
ルイゼンダール博士は台原亜洲偶戯博物館の館長であり、台原亜洲偶戯団の芸術監督でもあります。オランダ出身の博士がこの台北を棲家としたのは20 年以上前のことでした。1990 年、博士論文のフィールドワークのために初めて台北を訪れた博士はこの町に恋をしてしまいました。1993 年、学位を取得した博士は台北へ戻り、ここでキャリアを積み、生きていくことにしたのです。

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▲台原亜洲偶戯博物館の1階にあるオープンスタジオでは人形師が作業をしています。

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▲人形のパーツたちが人形師の愛情のこもった手で組み立てられるのを待っています。
研究対象から
生涯をかけた情熱へ
一体何が偶然の巡り合わせを生涯の情熱へと変えたのでしょうか。1986 年、ルイゼンダール博士はオランダのライデン大学に在籍し、中国学の博士課程で学んでいました。カリキュラムの一環として、特定のテーマについて中国で調査をすることになっていました。博士は演劇に関心があったので、図書館で関連する情報を探しヒントを探し求めました。「人形劇はどこにでもあるということが分かりました」と博士は言います。「伝統的な操り人形劇について学び、そこから中華文化を研究することに夢中になったのです」アモイ大学で、博士は初めて伝統的な中国の人形劇を鑑賞します。「その後、地方で活動する4つの人形劇団を追って、1930 年代に教育を受けた4 人の劇団員にインタビューしました」。博士は福建省を中心とした中国南部、そして台湾もいくつかのフィルドワークを行い、60 年以上の歴史を持つ伝統的な操り人形劇団に焦点を当てた学術論文を完成させました。
専門技術を身につけ、中国語といくつかの台湾の言語に堪能となった博士は、台北への愛とともにここに定住し、情熱を追い続けています。2001 年、ルイゼンダール博士は台原芸術文化基金会の創設者であり、自身も伝統的な劇人形の熱心な収集家であるポール・リン(林経甫)博士とともに人形劇に関する展示と上演を行う拠点を創設しました。
2005 年11 月、その拠点は現在の場所へ移転しました。2 軒の歴史ある建物が隣り合い、博物館と100 の客席がある多目的の「納豆劇場」があります。これらの成果を振り返り、人形劇の道を歩む自分にチャンスを与えてくれた台湾と台北に心から感謝しているとルイゼンダール博士は言います。さらに「台北は台湾の文化と発展の中心であり、素晴らしい場所です」と付け加えます。
博士が愛しているのは台北の文化だけではありません。この町の魅力を博士はすらすらと挙げていきます。「食べ物は美味しいし、天気も良い。ナイトライフも充実しています。ここは24 時間生きている町です。前向きに変化を続ける開放的な社会なのです」。また博士は、新しいことに取り組む人々や異なるバックグラウンドを持つ人々の中にある懐の広さ、自由さも台北の魅力だと語ります。
大稲埕の地域再生に
自ら参加
博士が台北でとくに愛するのは大稲埕です。ここは博物館と人形劇団が拠点としている地域です。100 年前、大稲埕は商売で栄えた川沿いの街でした。そのためここは長い間、神様と大衆を楽しませるために廟や寺で上演する人形劇団のような舞台芸術団体の活動拠点となっていました。ルイゼンダール博士は18 年前、この町と文化が生まれた大稲埕へ引っ越すことにしたのです。
博士はこのエリアにおける地域再生の取り組みに非常に満足しており、参加できたことを誇りに思うと言います。しかしこれは台湾人形劇の保存と育成という観点だけからの思いではありません。台原芸術文化基金会は当初から、台湾文化と大稲埕の歴史を発信する活動を行っていました。基金会が参加したプロジェクトのひとつに、迪化街で春節(旧正月)前に行われる年越し用品を扱う年の瀬市「年貨大街」の立ち上げがあります。現在では大切な祝日の前に人々が買い物に訪れ、観光客が集まる場所となりました。ルイゼンダール博士はこう言います。「このエリアが明らかに変化していくのを眼にするのは素晴らしいことです」また「薬局など昔ながらの古い店がこの地域に留まり、理想にあふれる人が経営する質の高い店に支えられ、欠けた部分が埋められていくのです」と話してくれました。

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▲大稲埕の歴史ある建物を利用した台原亜洲偶戯博物館。周辺の環境が博物館の展示を完全なものとしています。

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▲ルイゼンダール博士は仕事である人形劇研究や、上演と展示の企画に情熱を傾けています。
一人でこなす
いくつもの役割
理想にあふれた人々と言えば、ルイゼンダール博士は博物館に常駐する人形師と、博物館の保存を指導する衣装職人を挙げます。「私たちはみな4 つか5 つの仕事があるんです」、くすくすと笑いながら博士は言います。情熱とは何かがはっきりと分かった気持ちになります。博士の仕事のひとつは、毎年行われる2つの展示を企画することです。展示は博物館で行われるものと、台湾各地や海外を巡回するものがあります。博物館には膨大なコレクションがあり、その多くがアジアの伝統的な人形劇に関する文化財です。さらに台湾とアジアでフィールドワークも続けられています。そのため、ここにはたくさんの参考価値のある文化財が存在します。展示に当たり、楽しくわくわくできる環境を作り出すことを心がけていると博士は言います。「三次元で触れてもらうことが必要です。観客がまるで芝居の一部であるか、舞台裏のスタッフであるかのように、内部まで見えなければなりません」。博士は、ガラス越しに文化財を置く従来の博物館の展示方法をやめ、インタラクティブな来場者が参加できる活動を行っています。世界中から児童や観光客、専門家までがやってきます。それぞれの展示は基礎的なものから専門的なものまで、さまざまな知識が組み合わさったものです。「展示はいずれも正しい学術的な基礎が必要ですが、それでいて親しみやすく、インタラクティブなものでなければなりません」ルイゼンダール博士はこう語ります。
台原亜洲偶戯団の芸術監督として、ルイゼンダール博士は多くの脚本を書き、演出を務めています。現在までにこの人形劇団は50 カ国で30 以上の作品を上演してきました。中には準備に2年から3年をかけた、特に大人のために書かれた作品もあります。最近では上海で上演予定の同名オペラをベースにした『カルメン』がそれに当たります。どちらかといえば時間がかからない子ども向けの作品は、作品群の大部分を占めています。ルイゼンダール博士は作品それぞれにおいて、現代的な要素と世界最新の演劇のトレンドを融合させ、台湾人形劇だけが持つ特色を保つことに努めています。台湾と海外の出演者と音楽家をつなぎ、多彩な題材を包括する博士の舞台は、中国語、台湾語から英語、イタリア語へと広がる多様な言語を通じて、地元から世界へ発信されます。
20 年以上にわたる調査と実地での積み重ねから、ルイゼンダール博士は台湾の人形劇界を学術的な側面からもリードする存在となりました。人形劇の専門家を台北へ招へいする手助けもしています。昨年12 月には、国立台北芸術大学で行われた東南アジア・台湾布袋戯国際カンファレンスでの布袋戯(袋状の布で作られた指人形の劇)上演を計画し、博物館の展示も合わせて実施しました。

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▲台原亜洲偶戯博物館ではさまざまな伝統的な人形が紹介されています。
 
伝統芸能の未来は明るい
台湾の人形劇は伝統芸能です。ではそれは消えつつあるのでしょうか。ルイゼンダール博士は決してそのようには考えず、またたく間に楽観的な理由をいくつも挙げます。「政府は非常に協力的です。教育部は人形劇の教育プログラムを立ち上げました。また台湾の小学生は全員、人形劇を鑑賞することになっています」。博士はまた、人形劇の保存は台湾人のアイデンティティの維持にとても重要であると付け加えます。「これこそ台湾文化の一部なのです」。現在、台湾では約300 の人形劇団が活動しています。この芸術は今もここにあるのです。
ルイゼンダール博士によれば、人形劇は第二次世界大戦後から盛んになりました。テレビが普及し始めてからはテレビのために作られるようになり、1970 年代から人形劇の劇場は少なくなりましたが、最近ではサブカルチャーとして、コスプレの人気が高まっています。
ルイゼンダール博士は、台北は人々が情熱と成功を追いかけることができるチャンスの町だと考えています。台北では現代の流行、伝統の保存と再生、この両方を経験することができます。人形劇だけでなく、産業と芸術の全てが交わる町なのです。

台原亜洲偶戯博物館
台北市西寧北路79 号
(02)2556-8909
火曜日~日曜日 10:00 ~ 17:00
www.taipeipuppet.com
大人80 台湾ドル、子ども50 台湾ドル。20 人以上は人形劇観賞の予約が可能。
 

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