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TAIPEI 2016夏季号 Vol.04—街に息づく緑の光 都市全体がわたしの菜園

アンカーポイント

発表日:2016-07-12

更新日:2016-09-30

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文 _ 鍾文萍
写真 _ 楊智仁、台北市工務局公園街灯工事管理処、台北市立陽明教養院
台北市では多くの市民がコミュニティー内の空き地を利用して野菜を栽培し、心と体を満足させています
1. 台北市では多くの市民がコミュニティー内の空き地を利用して野菜を栽培し、心と体を満足させています。(写真/楊智仁)
今、農業がどれほど熱い注目を集めているかご存知でしょうか。投資家として有名なジム・ロジャーズ氏なら「金をもうけたい?それならすぐ農家になれ」と言うでしょう。しかし、土地がとんでもなく高い都市でこれを実現するのは容易なことではありません。ただ、それでも多くの人が家の屋上やベランダ、地域の空き地を利用して野菜を育てているのは、決して金銭的な富を追い求めることが理由ではなく、心身を満たし、地域、さらには都市全体を美しい緑で彩りたいと考えるからです。
コミュニティー農園ご近所とともに喜びを
今年4 月、松山区鵬程里のコミュニティ農園「快楽農園」で作物の収穫が行われ、新鮮な野菜を住民で味わう成果発表会が開かれました。集まった鵬程里の住民たちは収穫された食材を使った菜食料理が並ぶテーブルを囲み、作物を育て、収穫する喜びを心から堪能しました。まさに台北市が推進する田園都市計画のすばらしい成果と言えるでしょう。住民たちにとって農作業は、生活の中の欠かせない一部分となったのです。
台北市工務局公園街灯工事管理処の黄立遠所長は田園都市計画について、主に使われていない空き地や公共施設の屋上を利用して推進するもので、産業発展局が設置した屋上菜園(12 カ所)、教育局が進める「小田園計画」(239 カ所)、公園処の田園モデル基地(6 カ所)、市立聯合医院の田園基地(5 カ所)などでの取り組みが行われていると説明します。現在、作付面積は累計で7 万7,846 平方メートル、農作業に従事した市民は延べ2 万2,590 人に上ります。また同計画では従来の自治体からのトップダウン方式ではなく、市民の提案を吸い上げるボトムアップ方式へと段階的に移行しており、誰もが家庭や会社、居住する地域に小さな農園を持つことができるようになりつつあります。
鵬程里の快楽農園は、もともと駐車場にする予定だった用地を市の政策に応えて農園としたもので、昨年7 月に地域住民が集まってみんなでアイデアを出し合い、理想的な菜園を作り上げました。許顔建・鵬程里長は「小さな農園に過ぎないけれど、不思議なことに住民の生活に前向きな影響を与えてくれた」と語ります。
TAIPEI 2016夏季号 Vol.04—街に息づく緑の光 都市全体がわたしの菜園

2. 鵬程里の快楽農園は松山区初の住民参加型田園基地です。(写真/台北市工務局公園街灯工事管理処)
住民たちは熱意を持って農園での作業に取り組み、地域の子供たちも作物を育てる中で植物が成長していく過程を学んでいます。また農園ができたおかげて地域に憩いの場所が一つ増えたほか、有機栽培を取り入れる同園では子供たちがボランティアスタッフとともに苗を植え、堆肥を施し、害虫駆除などの作業を行っており、いかなる農薬も使用せずに作物を育てることで持続可能な自然環境の大切さを理解するようになっています。この農園ではチョウは飛び交うけれど、害虫の姿を目にすることはありません。
「それは住民たちが細やかな心配りで作物を育てている結果です。夜になると見たいテレビも見ずに懐中電灯を片手に害虫駆除に精を出しているのですから」―許里長は松山区で最初の住民参加による田園基地の成功例となった快楽農園はすべての住民にとって誇りだと胸を張ります。
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3. 陽明教養院の入居者は園芸に強い興味を示しています。(写真/台北市立陽明教養院)
心と体を癒す屋上農園
市街地を抜けて陽明山までやって来たところにある、台北市で唯一の公立知的障害者福祉施設、陽明教養院永福院区(永福の家)にも、見る人を驚かせるような屋上農園があります。ここは敷地が狭く、入居者の生活の場は日ごろから屋内に限定されがちで、屋外に出て自然に触れる機会が少なかったことから、施設側は欧州各国で広く取り入れられている看護と農作業を結びつけた新しい手法、「グリーンケア」を参考に、専門家の指導の下、園芸活動を導入することを決めました。福祉施設ビルの6 階屋上に葉野菜、ハーブ、果樹などのエリアに分かれた屋上農園が開設され、150 人の入居者のレクリエーション活動や植物観賞の場として活用されています。
ここに入居する者の大部分は車いすを使用しているため、屋上へ向かう通路はバリアフリーとなっているほか、農園内でもプランター高さや通り道の幅に車いすに合わせた配慮が施されています。また入居者は過度に複雑な作業や体に負担の大きい作業が難しいため、スプリンクラーによる自動散水システムが導入されているほか、肥料やりにもスマート設計が採用されています。これにより入居者は、煩雑な作業をこなさなくても緑豊かな生活を楽しむことができるのです。
この屋上農園が開設されてから約半年が経過していますが、ソーシャルワーカーの鄭心怡さんによると、運動が嫌いだった一部の入居者が園芸に強い興味を示したり、自分では植物の世話をすることはできないけれど、緑あふれる環境の中でストレスを解消する入居者の姿が見受けられるそうです。
菜園で作業することで入居者は「介護される側」から「生産する側」へと変わり、五感を使った体験が増え、自信が持てるようになるほか、身体の使い方もうまくなるなど、そのメリットは大きいと鄭さんは強調します。ソーシャルワーカー、ボランティア、入居者の家族ともその効果に期待を寄せる屋上農園で栽培された作物は現在、永福の家の調理室で最も歓迎される健康食材となっています。鄭さんは「みんな、この『予想外の収穫』に喜んでいます」と笑い、「自分で食べたい野菜を自分の手で植える。これほど自然で心身の健康に役に立つことはありません」と語ります。
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4. 田園都市計画は都市における人間関係が希薄になりがちな状況を打破し、人と人の豊かな交流を取り戻しました。(写真/楊智仁)
路地裏で販売される
宝物のような野菜
多くの人でにぎわう忠孝東路4段を歩いていると、市民が路地裏で自主的に開催している農産物のマーケットに出くわします。出ているのは10~20 店程度で、出店者はいずれも農薬と化学肥料を使用しない農法を採用する農家。販売されているのは人の体にやさしい野菜ばかりです。出店者はここを個人経営の農家が新たな可能性を見出す場所であり、自然にやさしい生活様式を台北市民と分かち合う場所だと考えています。産地から食卓までの距離を縮めるこのバザーは、コンクリートジャングルに住む台北市民の田園都市に対する期待を花開かせる緑の種のような存在となっています。
台北市が推進する田園都市計画は近年、地域コミュニティーの間にしっかりと浸透しつつあり、光復南路・復建里の「幸福農場」、富錦街民生社区・東栄里の「開心農場」といった、地域住民が自発的に開設したコミュニティー農園では毎年、作物の栽培のための利用を住民に無料で開放していますが、常に定員を上回る応募があるそうです。
光復南路32 巷と46 巷の間には、「眷村」(戦後すぐ中国大陸から移住してきた軍属の人々を中心にした集住地域)が解体された後、長年にわたり使用されていない荒廃した土地があり、近隣住民から敬遠される存在となっていました。そこで松山区復建里の林際泓里長は、所有者である軍を説得してこの土地を提供してもらい、まず48 区画の小さな菜園を作って住民に無料で貸し出しました。林里長は当初、「みんな忙しいから野菜を育てようなんて人はいないかもしれない」と不安でしたが、思いがけないことに数日で「満員御礼」となってしまいました。この事業を引き継いだ現職の林坤信里長は菜園をさらに168 区画まで拡大しましたが、希望者が多く、競争率はますます上がっているそうです。
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5. 復建里の幸福農場では住民たちが作物をまるで我が子のように育てています。(写真/楊智仁)
東栄里の開心農場はさらに広く、面積は2,500 坪に達します。もともとは空軍の眷村が解体された後にできた空き地となっていましたが、2010 年に台北で花博が開催されたことを機に鄭玉梅里長が軍に掛け合って同地を農園に変えました。該当地区の3,000人余の住民に対して180 区画が提供されていますが、ここでも毎年、借りたいという住民が申請の列を作っています。
台北市公園処園芸科の蘇怡萍科長は、田園都市計画は都市における人間関係が希薄になりがちな状況を打破し、人と人の豊かな交流を取り戻したと強調します。また田園基地により緑地スペースが拡大されたことで都市の生態学的機能も向上しており、市民が自然と新たな関係を築くことで心と体の健康を増進させる役に立てばと期待を語ります。
復建里の住民たちは暑い日も雨の日も、自分の育てる作物を見に農園へやって来て、水をやったり、草を抜いたり、隣の区画を借りている住民とのおしゃべりを楽しんだりしています。林里長によると、かつては同じ地域に住んでいながら互いに相手のことがよく分からない状態だったけれど、農園ができてみんなが自分の子供のように作物を育てるようになると共通の話題が生まれ、見知らぬ隣人から仲の良い友人へと変わったといいます。
東栄里の鄭里長も、朝から昼間まで仕事をこなした後、晩ごはんの支度までの時間を利用して地域のお母さんやおばあちゃんたちと一緒に土いじりを楽しみ、「今の時期はベニバナボロギクを植えるべきかしら、それともミツバかしら」などと話に花を咲かせます。この緑の宝石のようなコミュニティー農園に来れば、山に登らなくても自然を満喫でき、ささやかながらも確かな幸せを感じることができます。
もうしばらくすると、アイスバーグレタスやリーフレタス、「大陸妹」(中国原産のレタスの品種)といったレタス類が農園を緑一色に変えます。ある住民は保水のため菜園の周囲に銅銭草(ウコギ科の植物)を植えようと計画したり、ある者は植物棚を持ち込んだり、またある者はヘチマが実を結ぶためにつるをきちんと伸ばせるよう準備に余念がありません。誰もが自慢の菜園に夢中です。快適な生活を手に入れるのに何も遠くへ行く必要はありません。緑あふれる田園都市、台北の中で十分可能なのです。
 

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