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デザインで暮らしを改善 レッド‧ドット賞CEOの信念 (TAIPEI Quarterly 2016 冬季号 Vol.06)

アンカーポイント

発表日:2017-03-23

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デザインで暮らしを改善
レッド‧ドット賞CEOの信念

_ 蔡舒湉 
写真 _ Bernd Lauter、レッド・ドット・デザイン賞

死神がタイヤに銃弾を撃ち込み、大きな破裂音が響きました。車はブーメランのように激しく横転、回転し、周囲の人は息を呑みましたが、幸い運転手は無事でした。最近遭った交通事故について、世界的なデザイン賞「レッド‧ドット‧デザイン賞」の創設者兼CEOのピーター‧ゼック教授は、携帯を取り出し、事故の写真を見せながら言いました。「もし50年前に事故が起きていたら、私はとっくに死んでいたでしょう。でも私は無傷だったし、ボコボコになったフェラーリの横で葉巻を吸いました。私にとって、デザインの意義はここにあります。つまり、良いデザイン、良いテクノロジーは利便性と安全性を高め、暮らしをより簡単にしてくれます」。
TAIPEI 夏季号 2016 Vol.06 デザインで暮らしを改善    レッド‧ドット賞CEOの信念
▲ (写真/Bernd Lauter) 

「国際化」が成功の礎
ドイツ出身のゼック教授は、国際インダストリアルデザイン団体協議会(ICSID)、国際デザイン聯盟(IDA)の会長を歴任。レッド‧ドット‧デザイン賞の創設者兼CEO、世界デザイン首都計画の発起人でもあり、30年余りにわたってデザインの推進、学術研究、工業、社会デザインを推進してきました。還暦を迎えた後も休むことなくデザイン事業を進める世界的なデザインの専門家、顧問、提唱者であり続けます。
世界3カ所目の「レッド‧ドット‧デザイン‧ミュージアム」が台北市の松山文創園区にオープンしたことに加え、台北市が「2016年世界デザイン首都」に選ばれたため、ゼック教授は台北を何度も訪れ、台北の文化的な体質や建築‧空間デザインに深い感銘を受けたそうです。ゼック教授は「デザインと社会構造は密接な関係があります。台湾の教育と社会の風潮はとても自由、オープンで、台北市は台湾の首都として早くから世界と広い分野でつながってきました。台北のデザイン力に勢いがあるのはこのためでしょう」。
ゼック教授は自身の生い立ちに触れ、「父親は第二次世界大戦中にドイツ人のために働き、その後徴兵に応じて英国軍人となり、母親と知り合って結婚しました。私は幼いころから欧州各地の表情の異なる地域文化とさまざまな言語に触れてきたため、国際化は私の日常でした」と語ります。
これと同様に、ゼック教授は、台北市がここ数年視野を広げ、国籍の違いにとらわれることなく各分野のエリートを集め、国際化の視点から革新的な社会デザインを強化していることや、より良い社会をいかに構想し、立て直し、実現するかについて、台北市民の姿勢がより主体的、積極的になったことに注目しています。
ゼック教授は台湾では長きにわたってデザインに対する理解とニーズがあり、デザイン産業の生態系や構造もとても興味深いと考えています。活力いっぱいの中小デザイン会社が多い上、台湾は早くからレッド‧ドット‧デザイン賞に出展し、ノミネート作品が年々増えており、パフォーマンスもますます良くなっていると話します。
ゼック教授は「ドイツ、アメリカ、イギリス、フランス、日本などの国はそれぞれの国の人々の好む傾向が強く、これらの国に商品を売り込むのは難しいです。レッド‧ドット‧デザイン賞受賞作品でも同じように苦労します。こうした壁を乗り越える方法として、私は経歴の異なる国際的な審査員を招へいし、多元的な視点からデザイン作品を審査しています。その後、レッド‧ドット‧デザイン賞をもっとよく知ってもらおうと、アメリカとアジアで多くの展覧会を開きます。これは、私にとってグローバル化という成功に向けた第一歩です」と話します。その上で、国際化に一歩ずつまい進する台北市も各分野の人材が豊富な今、同様の経営モデルを使い、よりマクロで多元的な視点で世界全体を見つめ、世界に台湾のデザイン力を発信できるよう台湾全体をけん引できると提言しました。

デザインで社会に
ブレイクスルー
虚勢を張らず、世に媚びない。ゼック教授はデザインに対してとても前向きで、現実的です。ゼック教授は、家具、家庭用装飾品、食器はどれも「工芸(クラフト)」で、本当のデザインとは工業製品であり、暮らしを飛躍的に改善してこそ経済効果を生み出せると考えています。「新たなテクノロジーと新たな材料はデザインの動力源であり、人々の暮らしの質を高めることがデザインの任務です。デザイナーは自分にどのような貢献ができるか、自分たちの暮らしをどのように変えるかを考えなければなりません。ブランドやスターデザイナーを盲信する必要はありません。良いイスを作ったところでイスの数が増えるだけです。ですが、スマートフォンやスマートカーをデザインすることは、人類社会の発展に大きなブレイクスルーをもたらします。しかし、こうしたデザイナーは往々にして無名です。『われわれの暮らしをより便利に、快適にすること』に重点を置き、その他はお楽しみとしたらいいのです」と話します。
TAIPEI 夏季号 2016 Vol.06 デザインで暮らしを改善    レッド‧ドット賞CEOの信念
▲ 昨年のレッド・ドット・デザイン賞で、新鋭デザイナーの王奕方さん(左)、陳萱恩さん(中)、陳潜心さん(右)、林禕瑩さんが結成したチームが「ジュニア賞」を受賞しました。(写真/レッド・ドット・デザイン賞)

昨年のレッド‧ドット‧デザイン賞で、台湾科技大学の陳潜心さん、陳萱恩さん、政治大学の王奕方さん、林禕瑩さんら新鋭デザイナーが結成したチームが「ジュニア賞」を受賞しました。同チームが設計した作品は、「ブラインド‧ナビ」という視覚障害者専用のナビゲーションアプリです。社会のニーズに応えるため、視覚障害者が道路を認識する方法に倣い、視覚障害者が利用する複数の感覚の情報を組み合わせています。この作品には、デザインによって暮らしを向上させようというデザイナーの社会的責任感が強く出ており、ゼック教授に強い印象を残しました。
台北市はここ数十年間、街の姿をあらためてきました。複雑な交通システムや医療介護‧文化インフラの整備などにより、絶え間なく変身を遂げ、世界の注目を集めてきました。台北市の「2016年世界デザイン首都」のメインコンセプトは「進化を続ける都市」で、中でも社会問題に注目が集まります。デザイナーはデザインによって社会の構造的問題や個別のイシューを解決するために、最新のテクノロジー、生産技術、材料処理の基礎知識を身につけ、日々重要度を増す社会デザインのニーズに応える必要があります。これはまさに、ゼック教授が話す「暮らしをより便利に、快適にする」精神を反映しています。
TAIPEI 夏季号 2016 Vol.06 デザインで暮らしを改善    レッド‧ドット賞CEOの信念
▲ 世界3カ所目の「レッド・ドット・デザイン・ミュージアム」が台北市の松山文創園区にオープンしました。(写真/Bernd Lauter) 

デザインの雄に舞台提供
レッド‧ドット‧デザイン賞は創設以来、ホームページ、専門書籍、展覧会、ミュージアムを展開し、次は専用テレビチャンネルを開設します。ゼック教授は、デザインの雄の栄誉をたたえ、その価値を認め、受賞者にさらなるチャンスを提供することは、人類の文明を記録し前進させる重要な任務であり、レッド‧ドット‧デザイン賞の創設趣旨でもあると説明しました。ゼック教授はレッド‧ドット‧デザイン‧ミュージアム参観を「メッカ(聖地)巡礼」に擬えて、デザイン界の影の雄が自身をアピールできる舞台を提供していると話します。台北松山文創園区に「レッド‧ドット‧デザイン‧ミュージアム」がオープンしたことは、松山たばこ工場跡地がデザイン産業の集積地となった証拠であり、今後、台湾の創作エネルギーが勢いよく発展していくことを予見させます。これについてゼック教授は、台湾人に対して、レッド‧ドット‧デザイン‧ミュージアムで受賞作品の輝きだけでなく、作品1つ1つの裏側にあるストーリーを深く知ってほしいと呼び掛けています。
非現実的な夢を見ないゼック教授は、地に足の着いた自身の生活態度に触れ、真剣な態度は他者の信頼を獲得でき、努力の裏側には情熱と責任感が必要だと訴えます。「私はどういう状況で死ぬかは分かりません。私はただ、朝起きてから新たな1日をどう計画して、生活をもっと素晴らしいものにしようかと考えています。毎日どんな些細な変化があるかを観察しているのです」。ゼック教授はまた、台北が今後も社会環境への情熱と責任感を抱き続け、革新のエネルギーを高めてほしいと期待を示しました。テクノロジーを愛し、素晴らしいライフスタイルの提案を取り入れようとする人は、そんな台北の虜になること間違いありません。


レッド‧ドット‧デザイン賞
レッド・ドット・デザイン賞はドイツのiFデザイン賞、米国のインターナショナル・デザイン・エクセレンス賞(IDEA)と並ぶ世界3大デザイン賞の一つです。ドイツのデザイン機関「ノルトライン・ヴェストファーレン・デザインセンター」が1955年に創設し、毎年60カ国以上から1万点以上の作品が寄せられています。受賞者はドイツ・エッセンのレッド・ドット・デザイン・ミュージアムで出展したり、授賞式に参加することができます。

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