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ペンを武器に:台北のイラストレーターA ee miとの対談 (TAIPEI Quarterly 2019 秋季号 Vol.17)

アンカーポイント

発表日:2019-08-26

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TAIPEI #17 (2019 秋季号)

ペンを武器に:
台北のイラストレーターA ee miとの対談



文=Jenna Lynn Cody
写真=林彥廷、Taiwan Scene、Should Wang
編集=下山敬之 イラスト=A ee mi

 


A ee mi は台北のイラストレーター兼アニメーターで、作品の中で台湾文化や社会問題を取り上げています。▲A ee mi は台北のイラストレーター兼アニメーターで、作品の中で台湾文化や社会問題を取り上げています。

観光客の多くは台北のイラスト業界の動向をあまり知りません。台湾のイラストレーターの多くは個人的なプロジェクトで作品を作り出し、個人書店やアートショップ、Facebookページなどのオンライン上で発表しています。他にも2018年に台北で初めて開催されたイラストフェアや松山文創園区(ソンシャンウェンチュアンユェンチュー)などのアートスペースを利用して自ら展示会を主催しています。

新気鋭のイラストレーターの一人であるA ee miは、鮮やかな色彩で台北市の特徴であるカラフルな看板や懐かしい町並み、風景を表現すると同時に社会問題に対し強いメッセージを発しています。 今季の《TAIPEI》は、悠久の歴史を持ち、A ee miが生まれ育った街でもある万華(ワンホワ)区で彼女の作品や社会問題をテーマに対談を行いました。
人の目を引くイラストやカラフルな色調はA ee miの作品の特徴の一つです。▲人の目を引くイラストやカラフルな色調はA ee miの作品の特徴の一つです。

心の声に耳を傾ける
まず彼女の独特な名前について質問をしました。「実は特に意味はないんです。私の英語名はエイミー(Aimee)ですが、以前ソウルの映画祭に参加した際、韓国語ではアーイミー(a-ee-mi)と発音することに気づき、面白かったのでこの名前にしました」。

A ee miは台湾のイラスト業界で注目を集めています。彼女はニューヨークで芸術分野の修士号を取得し、短期間の就労を経て、2017年に台湾に戻りました。その後は自分の心の声に耳を傾け、男女同権や同性結婚、政治といった社会的な問題を取り上げながらイラストレーターとしての地位を確立しました。

「数年前までは社会問題には関心がありませんでした。ただ、留学の直前に台北でひまわり学生運動が起こり、香港でも反政府デモが発生しました。こうした問題は絶えず起こっていますが、私たちは『自分には無関係』と目を背けます。しかし、私たちには自分の未来を決める力と権利があり、現代人はそれを認識しなければいけません」とA ee miは言います。

台北をパレットに描く作品
A ee miの作品には台北独自の美的感覚や文化、場所など彼女のよく知る要素が含まれています。彼女は経済的なストレスを抱えながら大学を卒業し、イラストレーターになりましたが、外国文化の中で「焦り」を感じていました。そのため、台北に戻ってからは親しみやすさのある作品を心がけています。特に彼女が実際に「見た」万華区のカラフルな看板やネオン、昔ながらのマッサージ店や理髪店など風情ある町並みは作品に大きく影響しています。A ee miの目には万華区にある伝統的な理髪店さえも非常に興味深い題材になります。(写真/右:Taiwan Scene, イラスト/左:A ee mi)▲A ee miの目には万華区にある伝統的な理髪店さえも非常に興味深い題材になります。(写真/Taiwan Scene)

彼女は台湾に戻ってから自身の作品には台北の風景や生活環境が反映されていることに気づきました。「普段見慣れた町並みや周囲にある物事が作品に影響するとは思いもしませんでした。台北に戻ってから新しいスタイルを試し、自分が作りたいものは何か考えた時に、初期の作品には西門町(シーメンディン)の町並みや万華の伝統的な理髪店など台北にある当たり前のものが含まれていました。そこで伝統的なものが自分にとっては逆に新しいということに気づきました」と彼女は振り返ります。
A ee miの目には万華区にある伝統的な理髪店さえも非常に興味深い題材になります。(写真/右:Taiwan Scene, イラスト/左:A ee mi)▲A ee miの目には万華区にある伝統的な理髪店さえも非常に興味深い題材になります。(イラスト/A ee mi)

続いて台北とアメリカでイラストレーターをする長所と短所を伺いました。「アメリカの市場は成熟していますが、商業的すぎる面もあります。反対に台北の市場はあまり成熟していませんが、イラストレーターは非難や批評を受けないので、表現したいものを自由に作れる点が魅力です」。A ee miの作品にはネオンの鮮やかな色彩など台北にある様々な要素が取り入れられています。(写真/Should Wang)▲A ee miの作品にはネオンの鮮やかな色彩など台北にある様々な要素が取り入れられています。(写真/Should Wang)

また、イラストのスタイルに関してどちらの国も大きな違いはないそうで、「私たちは情報爆発の時代の中にいて、あらゆるものの境界はどんどん曖昧になっています。」と話します。また、彼女の作品には自身の伝えたいメッセージが隠されています。彼女にとって台北の美しさと台湾が抱える問題は切り離せないそうで、「私の作品と生活をしている街や国、そこで起きている問題は全て関連しています」と答えています。
万華にある日常的な風景はA ee miの創作のインスピレーションとなっています。▲万華にある日常的な風景はA ee miの創作のインスピレーションとなっています。

イラストレーションと台北の社会問題
A ee miが最初に発行したのは《流行刊物》という個人誌でした。彼女の恋人が自身のブランドを持つファッションデザイナーで、ファッション関連の展示会に参加した際にインスピレーションを受けてファストのファッションをテーマとした雑誌を作りました。

彼女は過去にファストファッションの服をよく買っていましたが、その背後に環境汚染の問題があることを知りませんでした。「恋人と付き合い始めてからは、環境問題についてよく話し合いました。企業はたくさんの服を作り、売れ残った服は途上国に送りつけます。企業は無料で服を提供しているつもりでも、本当にそれほどたくさんの服が必要か疑問を感じます」と経緯を話してくれました。

また、《流行刊物》は発行まで2週間しか猶予がなかったそうですが、基本的に彼女はいつも短期間でプロジェクトを完成させます。計画は立てるものの時間はあまり割かず、インスピレーションを感じた時にすぐに作り始めます。同性結婚をテーマとした《紅配綠》という作品も同様で、「作業開始がオンラインで公開する3週間前だったのでかなり急ぎでした」と話しています。TAIPEI 秋季号 2019 Vol.17--ペンを武器に《流行刊物》はA ee miが最初に発行した雑誌で、ファストファッションの消費問題をテーマとすることで多くの人に環境問題と向き合ってほしいという願いが込められています。(イラスト/A ee mi):台北のイラストレーターA ee miとの対談▲《流行刊物》はA ee miが最初に発行した雑誌で、ファストファッションの消費問題をテーマとすることで多くの人に環境問題と向き合ってほしいという願いが込められています。(イラスト/A ee mi)

また、男女同権というテーマに強い関心があり、よく作品のテーマとして採り上げています。「私は同性結婚や男女同権は当たり前と考えています。台北にはたくさんの同性愛者の友人がいますが、彼らも一般の人と同じように愛し、愛されるべき人たちです。大学にも同様の友人がいて、社会における立場や自己表現の方法について悩んでいました」。

さらに、彼女自身の実体験も話してくれました。「中学の頃、クラスの男子たちは女子のブラジャーのストラップを弾いたり、下着の色を予想する遊びをしていました。私はおとなしい性格だったので、男子たちからターゲットにされていました。今では反省していますが、当時の私は反撃する術を知らず、それを受け入れていました」。

こうした経験から《性別教育》という台湾の罵り言葉に隠れた性差別的な意味合いを取り上げたジンも発行しています。「私に性別に関する暴言を吐く人がたくさんいます。社会問題が熱く議論されても一部で『“差別的な表現を無くそう”なんて下らない』という声が上がるのは、議論するだけで根本的な問題は解決されていないからです」。
男女平等教育、同性結婚、ファストファッションの消費問題といった社会問題はすべてA ee mi が作品上で取り上げているテーマです。▲男女平等教育、同性結婚、ファストファッションの消費問題といった社会問題はすべてA ee mi が作品上で取り上げているテーマです。

A ee miはアート活動を通して人々の社会問題に対する意識を高めようと考えています。それこそが彼女の思いを直接的に伝える方法だからです。「時折、私は自分が弱い存在で問題を解決することはできないと感じます。イラストレーターの友達とも話しますが、変えたいという思いはあっても何を作ればいいかわからず、本当に何か変えられるのかと自分を疑ってしまいます」。

「ただ、一部のアーティストは何も変えられないとわかった上で作品を作り続けています。重要なことは自分に何ができて、どんな影響を与えられるか『考える』ことではなく、それを『する』ということです。一本のペンが強力な武器になります」とその思いを語ってくれました。

台北のイラスト業界の今について
A ee miは留学に行った2014年以降、台北のイラスト業界が大きく変わり始めたと感じています。彼女は帰国後、より独立的で、非主流の作品を作ったことで台北の個人書店やアート、サブカルチャー作品を展示するスペースから協力を得られるようになりました。

「アメリカではこうした場所はとても人気がありましたが、私が留学に行く前の台北にはほとんどありませんでした。私の留学中に個人書店が数多く台北でオープンし、台湾や海外の様々な作品を販売するようになりました。さらに台湾の独立したイラストレーターの宣伝もしてくれています。」と彼女は説明します。

彼女は基本的に出不精ですが、都市にある物理的な「場所」は非常に重要と考えています。現在は誰もがオンライン上で自身の作品を発信できますが、彼女は書店のような空間で実際に本をめくることで、より素敵な体験と影響が与えられると考えていて、「お店に入る前はどんな本に出会うかわかりませんが、恋愛と同じように出会ったあとはそこからたくさんのことが学べます」と話しています。MRT中山駅付近にある荒花書店は海外と台湾のインデペンデントアーティストの作品が取り扱われていることで有名です。(写真/Taiwan Scene)▲MRT中山駅付近にある荒花書店は海外と台湾のインデペンデントアーティストの作品が取り扱われていることで有名です。(写真/Taiwan Scene)

A ee miがおすすめする台北のおすすめスポットはMRT中山駅付近で、中でも「荒花書店」、「PAR STORE」、「Waiting Room」、「湿地Venue (ヴェニュ)」に行くべきと話します。荒花書店は台湾と海外のインデペンデントアーティストの作品をメインで販売していて、彼女も「行けば何かが見つかるお店」と話しています。PAR STOREはインデペンデントレーベルが主体のレコード店ですが、個人誌などの書籍も扱っています。Waiting Roomは主にヨーロッパやアメリカの雑誌がメインで、他にも個人ブランドの服の販売や台北のアーティストの作品の展示もしています。湿地VenueはA ee miが昨年2月に展示会を開催したことから特におすすめだそうです。中山駅以外だと公館にあるMangasickがおすすめで、台北と日本の漫画を取り扱っています。
湿地Venue(ヴェニュ)は複合型の展示スペースで台北のアーティストやクリエイターが作品の展示や上演をするステージがあります。(写真/Taiwan Scene)▲湿地Venue(ヴェニュ)は複合型の展示スペースで台北のアーティストやクリエイターが作品の展示や上演をするステージがあります。(写真/Taiwan Scene)

現在、台北ではA ee miのような年齢的にもキャリア的にも若いイラストレーターが増えていて、彼女の自由なスタイルを見てもわかるように台北は自由な創作環境を提供しています。アートは娯楽や歓楽の元ですが、A ee miは自身の作品を通して多くの人の社会問題に対する意識を高め、アートが持つ真の力を示そうとしています。今後はこうした考えが台北のアートのトレンドになっていくことでしょう。

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