発表日:2022-09-22
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TAIPEI #29 (2022 秋季号)
台北から世界へ夢の舞台を目指して
3組のアーティストが叶えた夢
文:Elisa Cohen、Jamie R. Wood 編集:下山敬之 写真:Ultra Combos、Ro-hsuan Chen、王世邦、Dinghan Zheng、余信誼、Samil Kuo
▲様々なジャンルの人たちが夢を叶えられるように、台北市は無限のチャンスとリソースを提供しています。 ( 写真/ Ultra Combos )
自分の夢を実現するために必要な要素は何でしょう? 固い決意、情熱、強い信念、いずれも重要ですが、時には環境という要素も必要となります。環境とは、これから活躍をする未来のスターに、チャンスや資源、インスピレーションなどを提供する場所という意味です。
台北市が成立したのは 1875年のこと。以降、現在に至るまで多くの人々が夢を追い求めてこの街へとやってきました。そうした移民たちが、この地に住居や企業を構え、現代の繁栄をもたらしたのです。小さいながらも賑やかな大都市台北には現在、異なる国籍、民族、性別、職業人たちが200万人以上います。この街では、産業の隔たりを超えて、世界的な企業とのつながりを持つことができるほか、アートコミュニティを支援する強固なリソースを利用することで、無限のチャンスを掴むことができます。
芸術の秋というように、この時期の台北ではアート関連のイベントが続々と開催されます。そこで今回は、ダンス、ファッションデザイン、音楽と異なるジャンルで活躍する3組のアーティストたちに、台北で夢を叶えたサクセスストーリーをお話いただきました。
スポットライトの中を舞う
ダンサー‧ 振付師、謝杰樺(シエ‧ ジエホァ)
▲謝杰樺氏のモダンなダンスの多くは、日常生活からインスピレーションを得ていて、独自のボディーランゲージで強烈な感情を表現しています。(写真/Ro-hsuan Chen)
アーティストの多くは周囲の環境からインスピレーションを得ています。豊かな文化や自然を有する台北は、これまで多くのアーティストを成功へと導いてきました。アナーキーダンスシアター(安娜琪舞踏劇場)を設立したダンサー兼振付師の謝杰樺氏は、台北での生活をもとに振付けの仕事を始めたと言います。
「台北にはさまざまなチャンスや才能が溢れています。誰もがあらゆる可能性やイノベーションを起こす機会を探っているのです。まさにクリエイターの思考にマッチした環境であり、自らの理想を実現できる都市だと思います」と謝氏は話します。
ダンスパフォーマンスは他のアートにはないダイナミックな表現方法です。アーティストの多くは、アイデアや感情など抽象的なものから、問題に対する自身の考えや意見を表現します。だからこそ、彼らは多様性を受け入れてくれるオープンマインドなオーディエンスを求めています。「台北は誰もが斬新なものに敏感で、無理なく受け入れてくれます。なので、話の通じる人も見つけやすく、振付師にとって理想的な都市なのです」。
台北の自然環境もアーティストにとっては不可欠な要素です。「台北の魅力は自然環境が身近にあることです」。謝氏は士林区の洲美橋から見える陽明山の緑を目にしたことで、自然が心にもたらす影響について考えるようになりました。
目まぐるしく変化する都市圏は、クリエイターに無限のインスピレーションをもたらします。反対に静かな郊外は、自己探求や感情の内省をする機会を与えます。つまり、作品が芸術的なアイデアと思考をしっかり表現しているか、思いを巡らすことができるのです。「台北はこういった二面性があるからこそ、快適に暮らせるのです」と謝氏は言います。
また、台北市文化局が主催する「空きスペースの有効活用プロジェクト」によって、多くのアーティストたちは台北で拠点を構える際のコストを抑えられています。謝氏が設立したアナーキーダンスシアターも、かつての学校を改装した「新北投七一園區」にあります。「台北は私の夢を実現するための拠点を与えてくれました。私を含めチームメンバーも余計な事務作業をすることなく、本来の仕事に集中できています」。
建築とダンスというバックグラウンドを持つ謝氏は、2017年の台北ユニバーシアード開会式のディレクションを担当。パフォーマーだけなくディレクターとしても多くの芸術文化イベントに招待されてきました。秋の最大のアートイベントである「台北白晝之夜 」も彼にとっては大きな挑戦を伴うイベントでした。

▲謝氏は2017年の台北ユニバーシアード競技大会や台北白晝之夜など大規模なイベントで演出や企画を担当した経験を持っています。(写真/王世邦)
「台北白晝之夜はオープンスペースで開催されるため、さまざまな課題に直面することになります」。このイベントは新たなアートジャンルの第一歩を一般の人々にも体験してもらうことを目的としています。謝氏は2019年の同イベントにおいて台北ファッションウィークとコラボしたショーを企画。国立故宮博物院の文化遺産を要素とした内容で観客の心に訴えかけました。「舞台アートに馴染みのない人たちの前でパフォーマンスをすることで、いつもとは違ったフィードバックを得ることができます。実に興味深く、実りある体験でした」と謝氏は振り返ります。
謝氏は異なる分野で得た経験をもとに、振付、空間演出、テクノロジー分野を組み合わせた表現で人々に感動を与えています。一方で、他のアーティストには常に変化する都市の様子を観察することを勧めています。台北は新しいものと歴史あるもの、自然と人間が同居しているので、夢を実現するための出発点となるでしょう。
夢の舞台で描く願い
ファッションデザイナー、余信誼(ユ‧ シンイー)
▲若きデザイナー余信誼氏は、大学卒業から間もないにも関わらず、台北ファッションウィークのニューブリードに選ばれるなど輝かしい功績を残しています。(写真/Dinghan Zheng)
ありとあらゆるスタイルや嗜好が許容されている台北では、毎年台北ファッションウィークと題したデザイナーのためのイベントを開催しています。その中で行われるニューブリードショーに選ばれたデザイナーの一人が余信誼氏です。彼女は台北の建築物からインスピレーションを得て、ユニークな作品を作り上げています。
「私の作品はほとんどが社会問題と関連しています。自分がこの目で見てきたことを伝えることで、他の人たちとの会話のきっかけになればと思っています」と余氏は語ります。彼女は台湾の多様な文化を後世に残すことに価値を見出しており、台湾の古い家屋が無作法に改築されてきたことに心を痛めていました。そこで、服のデザインを通じて、台湾の古い家屋が持つ独特の美しさを、より多くの人に知ってもらいたいと考えるようになったと言います。
「総統府をはじめ、台北には1895年から 1920年代に建てられた折衷的な建築物が数多く残っています。国立台湾博物館や国立台湾大学病院もそうです。これらはすべて、私にとってのインスピレーションの源なのです」。
こうした建築物には各時代の異なる様式が見られますが、余氏はそれらをデザインに応用することを思いつきます。赤レンガや動物のレリーフなど古い家屋の様式や装飾、色などの要素を衣服にも反映させているのです。「台北にある古い家屋を見ながら、歴史的建造物と現代社会の相互作用について考えるのが好きです」と余氏は話します。

▲台北の折衷的な建築から発想を得た余氏は、レンガやレリーフなどの要素を取り入れた作品で台北ファッションウィークのランウェイを歩きました。(写真/余信誼)
また、台北は服飾に関する資源が豊富です。「私が選ぶ素材はすべて台湾産です。普段は迪化街にある永楽市場で生地を選んだり、業者に特定の生地の製作や取寄せをしてもらっています」。余氏がデザインするドレスの生地は彼女独自のもので、洗練されたプリーツなど魅力にあふれています。これらはすべて、職人たちのサポートがあって実現しました。
2020年、彼女は大学の卒業を控えていましたが、新型コロナウイルスの流行によって卒業記念のファッションショーが中止となってしまいました。しかし、長い時間をかけて製作した作品を無駄にはできないと彼女は様々なコンペに参加。その結果、2020年の台湾ファッションデザイン賞で最終選考に残り、2022年台北ファッションウィークではニューブリードショーに選ばれました。「ニューブリードショーに選ばれたことは、私にとって大きな実績となりました。デザインの道に進む自信が持てるようになったのです」と余氏は振り返ります。
台北ファッションウィークは若い才能と革新的な創造性が集まるイベントで、ファッション業界で働く若者にとっては夢の舞台です。
「台北ファッションウィークの準備は限界への挑戦でした」と余氏は言います。2ヶ月という短い期間に、何千もの生地、素材、色から適切な組み合わせを選び、16着の衣服をデザインしなければいけませんでした。さらにその上で、大衆に受け入れられる必要もあるなど、彼女が過去に参加してきた学生向けのショーとはまったく内容の異なるものだったのです。しかし、結果的には彼女の視野を広げ、将来の礎を築くことになったイベントでした。「ショーの翌日、スタイリストさんが服を借りに来たり、提携の依頼が来たり、さらに海外のファッションウィークにも招待されました」。賞の獲得や知名度の向上が自信に繋がり、さらに前進する勇気を与えてくれたと余氏は語ります。
「台北はクリエイターが輝ける場所です!台北ではさまざまなアイデアが次々と生み出され、活気あるイベントが数多く開催されています」。台北では松山文創園区や華山 1914文化創意産業園区、POPOP台北製造所など、クリエイターが作品を披露する場が多く、アート作品が人々の身近にあります。
決意と覚悟のスウィング
ジャズバンド、 踢霹歐樂團
▲TPOは異なる民族、性別、年齢のメンバーで構成されている強みを活かし、それぞれのバックボーンを取り入れた音楽で注目を集めています。
踢霹歐樂團 (TPO、台北プロオーケストラ) バンドは偶発的に誕生しました。2020年のパンデミックは世界をパニックに陥れましたが、ジム‧ ゲッデス氏と林克安( リン・コーアン) 氏にとっては、バンドを結成する絶好のタイミングとなりました。
管楽器奏者兼リーダーであり、TPOを結成したゲッデス氏は「私はずっと台北でバンドを組みたいと思っていました」と話します。2020年、台北を拠点とする多くのミュージシャンたちは、ツアーができずにいました。これこそが、ゲッデス氏が求める才能を募るのに最適なタイミングとなったのです。
米国出身のゲッデス氏は、ブロードウェイのコーディネーターであり、またツアーで世界中を巡ったフリーランスのミュージシャンでした。一方、林氏は台北で活躍するベーシストであり、長年の知り合いであった二人はジャズを愛するという共通の想いから、ついにバンドを組むに至りました。

▲プロの奏者であるジム・ゲッデス氏(上)と林克安氏(下) は、台北でプロレベルのビッグバンドを作り上げることを目標としています。
民生東路にあるミュージックレストラン「SMEXY」は、TPOが初めてスウィングというスタイルの演奏を行った場所です。「第一の目標はバンドを組んで本場のスウィングを演奏すること、さらにメンバーと新しい音楽を作ることでしだ」とゲッデス氏は話します。
SMEXY のような場所が新人ミュージシャンたちの自由な創作活動を促し、台北の音楽シーンを急速に成長させてきました。「このようなミュージックレストランこそ、まさに 1940~ 1950年代のビッグバンドが演奏していた場所であり、音楽が大衆に受け入れられてきた方法でもあります」。
現在、バンドのマネージャーを兼任している林氏は、最新のプロジェクトを紹介できることにこれ以上ないほど興奮している、と話します。「たとえば、台北ジャズフェスティバルは自分たちの音楽を試す最高のステージでしたし、反響も非常に大きなものでした」。TPOは昨年、急速にその名が知られるようになり、2021年の台北ジャズフェスティバルでは大トリを務めました。「台湾が誇る原住民ロックスター、戴曉君(ダイ・シャオジュン)とコラボしたのですが、そこで新しく、楽しい、革新的な音楽を作り、観客たちを熱狂させました」と林氏は振り返ります。
演奏の様子は現在、YouTubeでも視聴が可能です。フュージョンというジャンルの精神を台湾の音楽に反映させた楽曲で、TPOのスウィングとロックの要素、さらに原住民の楽器のサウンドが溶け込むことで、折衷的なハーモニーが完成しました。「ビッグバンドは私にとって容器のようなもので、面白い音楽が中に入れば、1つの興味深い作品に仕上がります」と林氏は話します。
ゲッデス氏と林氏の二人は、大きなステージに立ちたいなら勇気を出すことだと言っています。「恥ずかしがってプロのミュージシャンに質問できない後輩をたくさん見てきました」と話すゲッデス氏。TPOでは、若いプレイヤーにも参加のチャンスを与えています。「アメリカでは経験豊富なベテランと革新的な若手がバンドを組むのが当たり前です。年長者は伝統を教え、若者は新しいインスピレーションを伝えることで、お互いに良い影響を与え合っているのです」。
加えて林氏は新人に対して、台北のリソースを利用するよう勧めています。「台北は台湾の中で最もジャムセッションが盛んな場所です。まずはそこで経験を積みましょう」。二人をはじめ、多くのジャズプレイヤーは中山区にあるSappho Jazz Live でセッションを行い、そこから台北での音楽キャリアをスタートさせています。大安区にあるRhythm AlleyやBlue Note Taipei、または中山区のCafé Rossiyaといったお店も同様です。
TPOの挑戦は始まったばかりで、彼らはさらに大きな夢に向かっています。「今後の目標は台湾を訪れたジャズファンが、TPOのライブは最高のショーだと言ってもらえるようなバンドになることです」と話すゲッデス氏。
可能性に満ちた都市、台北は未来のスターたちを輝かせる舞台です。
台北から世界へ夢の舞台を目指して
3組のアーティストが叶えた夢
文:Elisa Cohen、Jamie R. Wood 編集:下山敬之 写真:Ultra Combos、Ro-hsuan Chen、王世邦、Dinghan Zheng、余信誼、Samil Kuo
自分の夢を実現するために必要な要素は何でしょう? 固い決意、情熱、強い信念、いずれも重要ですが、時には環境という要素も必要となります。環境とは、これから活躍をする未来のスターに、チャンスや資源、インスピレーションなどを提供する場所という意味です。
台北市が成立したのは 1875年のこと。以降、現在に至るまで多くの人々が夢を追い求めてこの街へとやってきました。そうした移民たちが、この地に住居や企業を構え、現代の繁栄をもたらしたのです。小さいながらも賑やかな大都市台北には現在、異なる国籍、民族、性別、職業人たちが200万人以上います。この街では、産業の隔たりを超えて、世界的な企業とのつながりを持つことができるほか、アートコミュニティを支援する強固なリソースを利用することで、無限のチャンスを掴むことができます。
芸術の秋というように、この時期の台北ではアート関連のイベントが続々と開催されます。そこで今回は、ダンス、ファッションデザイン、音楽と異なるジャンルで活躍する3組のアーティストたちに、台北で夢を叶えたサクセスストーリーをお話いただきました。
スポットライトの中を舞う
ダンサー‧ 振付師、謝杰樺(シエ‧ ジエホァ)
アーティストの多くは周囲の環境からインスピレーションを得ています。豊かな文化や自然を有する台北は、これまで多くのアーティストを成功へと導いてきました。アナーキーダンスシアター(安娜琪舞踏劇場)を設立したダンサー兼振付師の謝杰樺氏は、台北での生活をもとに振付けの仕事を始めたと言います。
「台北にはさまざまなチャンスや才能が溢れています。誰もがあらゆる可能性やイノベーションを起こす機会を探っているのです。まさにクリエイターの思考にマッチした環境であり、自らの理想を実現できる都市だと思います」と謝氏は話します。
ダンスパフォーマンスは他のアートにはないダイナミックな表現方法です。アーティストの多くは、アイデアや感情など抽象的なものから、問題に対する自身の考えや意見を表現します。だからこそ、彼らは多様性を受け入れてくれるオープンマインドなオーディエンスを求めています。「台北は誰もが斬新なものに敏感で、無理なく受け入れてくれます。なので、話の通じる人も見つけやすく、振付師にとって理想的な都市なのです」。
台北の自然環境もアーティストにとっては不可欠な要素です。「台北の魅力は自然環境が身近にあることです」。謝氏は士林区の洲美橋から見える陽明山の緑を目にしたことで、自然が心にもたらす影響について考えるようになりました。
目まぐるしく変化する都市圏は、クリエイターに無限のインスピレーションをもたらします。反対に静かな郊外は、自己探求や感情の内省をする機会を与えます。つまり、作品が芸術的なアイデアと思考をしっかり表現しているか、思いを巡らすことができるのです。「台北はこういった二面性があるからこそ、快適に暮らせるのです」と謝氏は言います。
また、台北市文化局が主催する「空きスペースの有効活用プロジェクト」によって、多くのアーティストたちは台北で拠点を構える際のコストを抑えられています。謝氏が設立したアナーキーダンスシアターも、かつての学校を改装した「新北投七一園區」にあります。「台北は私の夢を実現するための拠点を与えてくれました。私を含めチームメンバーも余計な事務作業をすることなく、本来の仕事に集中できています」。
建築とダンスというバックグラウンドを持つ謝氏は、2017年の台北ユニバーシアード開会式のディレクションを担当。パフォーマーだけなくディレクターとしても多くの芸術文化イベントに招待されてきました。秋の最大のアートイベントである「台北白晝之夜 」も彼にとっては大きな挑戦を伴うイベントでした。
「台北白晝之夜はオープンスペースで開催されるため、さまざまな課題に直面することになります」。このイベントは新たなアートジャンルの第一歩を一般の人々にも体験してもらうことを目的としています。謝氏は2019年の同イベントにおいて台北ファッションウィークとコラボしたショーを企画。国立故宮博物院の文化遺産を要素とした内容で観客の心に訴えかけました。「舞台アートに馴染みのない人たちの前でパフォーマンスをすることで、いつもとは違ったフィードバックを得ることができます。実に興味深く、実りある体験でした」と謝氏は振り返ります。
謝氏は異なる分野で得た経験をもとに、振付、空間演出、テクノロジー分野を組み合わせた表現で人々に感動を与えています。一方で、他のアーティストには常に変化する都市の様子を観察することを勧めています。台北は新しいものと歴史あるもの、自然と人間が同居しているので、夢を実現するための出発点となるでしょう。
夢の舞台で描く願い
ファッションデザイナー、余信誼(ユ‧ シンイー)
ありとあらゆるスタイルや嗜好が許容されている台北では、毎年台北ファッションウィークと題したデザイナーのためのイベントを開催しています。その中で行われるニューブリードショーに選ばれたデザイナーの一人が余信誼氏です。彼女は台北の建築物からインスピレーションを得て、ユニークな作品を作り上げています。
「私の作品はほとんどが社会問題と関連しています。自分がこの目で見てきたことを伝えることで、他の人たちとの会話のきっかけになればと思っています」と余氏は語ります。彼女は台湾の多様な文化を後世に残すことに価値を見出しており、台湾の古い家屋が無作法に改築されてきたことに心を痛めていました。そこで、服のデザインを通じて、台湾の古い家屋が持つ独特の美しさを、より多くの人に知ってもらいたいと考えるようになったと言います。
「総統府をはじめ、台北には1895年から 1920年代に建てられた折衷的な建築物が数多く残っています。国立台湾博物館や国立台湾大学病院もそうです。これらはすべて、私にとってのインスピレーションの源なのです」。
こうした建築物には各時代の異なる様式が見られますが、余氏はそれらをデザインに応用することを思いつきます。赤レンガや動物のレリーフなど古い家屋の様式や装飾、色などの要素を衣服にも反映させているのです。「台北にある古い家屋を見ながら、歴史的建造物と現代社会の相互作用について考えるのが好きです」と余氏は話します。
また、台北は服飾に関する資源が豊富です。「私が選ぶ素材はすべて台湾産です。普段は迪化街にある永楽市場で生地を選んだり、業者に特定の生地の製作や取寄せをしてもらっています」。余氏がデザインするドレスの生地は彼女独自のもので、洗練されたプリーツなど魅力にあふれています。これらはすべて、職人たちのサポートがあって実現しました。
2020年、彼女は大学の卒業を控えていましたが、新型コロナウイルスの流行によって卒業記念のファッションショーが中止となってしまいました。しかし、長い時間をかけて製作した作品を無駄にはできないと彼女は様々なコンペに参加。その結果、2020年の台湾ファッションデザイン賞で最終選考に残り、2022年台北ファッションウィークではニューブリードショーに選ばれました。「ニューブリードショーに選ばれたことは、私にとって大きな実績となりました。デザインの道に進む自信が持てるようになったのです」と余氏は振り返ります。
台北ファッションウィークは若い才能と革新的な創造性が集まるイベントで、ファッション業界で働く若者にとっては夢の舞台です。
「台北ファッションウィークの準備は限界への挑戦でした」と余氏は言います。2ヶ月という短い期間に、何千もの生地、素材、色から適切な組み合わせを選び、16着の衣服をデザインしなければいけませんでした。さらにその上で、大衆に受け入れられる必要もあるなど、彼女が過去に参加してきた学生向けのショーとはまったく内容の異なるものだったのです。しかし、結果的には彼女の視野を広げ、将来の礎を築くことになったイベントでした。「ショーの翌日、スタイリストさんが服を借りに来たり、提携の依頼が来たり、さらに海外のファッションウィークにも招待されました」。賞の獲得や知名度の向上が自信に繋がり、さらに前進する勇気を与えてくれたと余氏は語ります。
「台北はクリエイターが輝ける場所です!台北ではさまざまなアイデアが次々と生み出され、活気あるイベントが数多く開催されています」。台北では松山文創園区や華山 1914文化創意産業園区、POPOP台北製造所など、クリエイターが作品を披露する場が多く、アート作品が人々の身近にあります。
決意と覚悟のスウィング
ジャズバンド、 踢霹歐樂團
踢霹歐樂團 (TPO、台北プロオーケストラ) バンドは偶発的に誕生しました。2020年のパンデミックは世界をパニックに陥れましたが、ジム‧ ゲッデス氏と林克安( リン・コーアン) 氏にとっては、バンドを結成する絶好のタイミングとなりました。
管楽器奏者兼リーダーであり、TPOを結成したゲッデス氏は「私はずっと台北でバンドを組みたいと思っていました」と話します。2020年、台北を拠点とする多くのミュージシャンたちは、ツアーができずにいました。これこそが、ゲッデス氏が求める才能を募るのに最適なタイミングとなったのです。
米国出身のゲッデス氏は、ブロードウェイのコーディネーターであり、またツアーで世界中を巡ったフリーランスのミュージシャンでした。一方、林氏は台北で活躍するベーシストであり、長年の知り合いであった二人はジャズを愛するという共通の想いから、ついにバンドを組むに至りました。
民生東路にあるミュージックレストラン「SMEXY」は、TPOが初めてスウィングというスタイルの演奏を行った場所です。「第一の目標はバンドを組んで本場のスウィングを演奏すること、さらにメンバーと新しい音楽を作ることでしだ」とゲッデス氏は話します。
SMEXY のような場所が新人ミュージシャンたちの自由な創作活動を促し、台北の音楽シーンを急速に成長させてきました。「このようなミュージックレストランこそ、まさに 1940~ 1950年代のビッグバンドが演奏していた場所であり、音楽が大衆に受け入れられてきた方法でもあります」。
現在、バンドのマネージャーを兼任している林氏は、最新のプロジェクトを紹介できることにこれ以上ないほど興奮している、と話します。「たとえば、台北ジャズフェスティバルは自分たちの音楽を試す最高のステージでしたし、反響も非常に大きなものでした」。TPOは昨年、急速にその名が知られるようになり、2021年の台北ジャズフェスティバルでは大トリを務めました。「台湾が誇る原住民ロックスター、戴曉君(ダイ・シャオジュン)とコラボしたのですが、そこで新しく、楽しい、革新的な音楽を作り、観客たちを熱狂させました」と林氏は振り返ります。
演奏の様子は現在、YouTubeでも視聴が可能です。フュージョンというジャンルの精神を台湾の音楽に反映させた楽曲で、TPOのスウィングとロックの要素、さらに原住民の楽器のサウンドが溶け込むことで、折衷的なハーモニーが完成しました。「ビッグバンドは私にとって容器のようなもので、面白い音楽が中に入れば、1つの興味深い作品に仕上がります」と林氏は話します。
ゲッデス氏と林氏の二人は、大きなステージに立ちたいなら勇気を出すことだと言っています。「恥ずかしがってプロのミュージシャンに質問できない後輩をたくさん見てきました」と話すゲッデス氏。TPOでは、若いプレイヤーにも参加のチャンスを与えています。「アメリカでは経験豊富なベテランと革新的な若手がバンドを組むのが当たり前です。年長者は伝統を教え、若者は新しいインスピレーションを伝えることで、お互いに良い影響を与え合っているのです」。
加えて林氏は新人に対して、台北のリソースを利用するよう勧めています。「台北は台湾の中で最もジャムセッションが盛んな場所です。まずはそこで経験を積みましょう」。二人をはじめ、多くのジャズプレイヤーは中山区にあるSappho Jazz Live でセッションを行い、そこから台北での音楽キャリアをスタートさせています。大安区にあるRhythm AlleyやBlue Note Taipei、または中山区のCafé Rossiyaといったお店も同様です。
TPOの挑戦は始まったばかりで、彼らはさらに大きな夢に向かっています。「今後の目標は台湾を訪れたジャズファンが、TPOのライブは最高のショーだと言ってもらえるようなバンドになることです」と話すゲッデス氏。
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