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​​​​​​​台湾のアートを支えるデジタルトレンド (TAIPEI Quarterly 2021 冬季号 Vol.26)

アンカーポイント

発表日:2021-12-10

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TAIPEI #26 (2021 冬季号)


台湾のアートを支えるデジタルトレンド

文: Seb Morgan
編集: 下山敬之
写真: Samil Kuo、C-LAB
グラフィックデザイン: 聶永真


ロンドンやパリのような歴史や国際的知名度はありませんが、新型コロナウイルスに対する防疫対策から、台北のアートがこの2年ほど世界的な注目を集めています。2020年には美術館やギャラリーの自由な運営が話題となり、2021年はデジタルアートの発展が話題となっています。

そのアートシーンの最前線にいるのが現在44歳の聶永真(ニエ・ヨンジェン)氏です。台北を拠点に活動する彼はこれまでドイツのレッドドット賞、IFコミュニケーションデザイン賞、台湾ゴールデンメロディ賞のベストアルバムデザイン賞など、数々の賞を獲得してきました。今季の《TAIPEI》はそんな聶氏からコードアートやNFTアートなど、国内外のニューメディアに関するトレンドについて話を伺いました。

聶永真訪談-22 (Copy)▲グラフィックデザインの第一人者である聶氏は、最近デジタルアートの世界に足を踏み入れ、人々を驚かせる作品を作り続けています。

コードアートとの出会い

聶氏は台湾のデジタルアート分野において第一人者と言える重要な存在です。彼の実績には台湾ビールやセブンイレブン、蔡英文総統に関するデザインといった華々しいものがあります。また、パンデミックに際して台湾はWHOの会合への参加をを認められませんでしたが、聶氏がデザインしたニューヨーク・タイムズ紙の広告「Taiwan Can Help」が世界的な注目を集めた事は記憶に新しいです。他にも数ヶ月前には《VOGUE》台湾版7月号のために制作したNFTカバーアートが競売にかけられ、30ETH(本稿執筆時点では14万ドル強)で落札された事で再び話題となりました。

Vogue Cover July (Copy)▲聶氏は雑誌《VOGUE Taiwan》とコラボし、「Formosa Love」をテーマとした台湾発のNFTによる雑誌表紙を製作しました。(グラフィックデザイン/聶永真)

もともと聶氏の専門はグラフィックデザインでしたがベルギーやイギリスに留学したことをきっかけにコードアートに興味を持ったそうです。「すでに台北でデザインスタジオを設立していましたが、新しいクリエイティブなチャンネルの可能性を探るため、休みを取ることにしました」と当時を振り返ります。

コードアートは2000年代から急速に普及したメディアで、コンピュータ・プログラミングの中でも創造を目的とした非常に多様な分野です。コードアーティストたちは既存の環境を使わずにゼロからデザインをするので、想像力次第で無限の可能性を表現することができます。

聶氏が最近発表した作品には、重厚感の漂うテクノのビートに合わせて白黒のスペクトログラムが動く『RAVISION』があります。「一般的な動画ファイルとコーディングで作られたモーション作品との違いはバリエーションがあることです。動きのパターンは不規則で、常に同じ動きをするわけではありません。また、コードアートは音楽に反応するようにプログラムすることもできます」と説明しています。
 
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▲聶氏が最近発表した『RAVISION』という作品は、動画を再生することで異なる形の線を作り出すコーディングアートとなっています。(グラフィックデザイン/聶永真)

新技術の活用
聶氏曰く、革新的な物事に対してワクワクするタイプらしく、何事も実験をしてみることが面白いそうです。「私は新しい技術に触れ、それを使い何ができるかを調べるのが好きです」。

「コーディングの技術は、初心者にとって非常に難解です。ただ、基本を押さえれば従来のソフトウェアでは実現できない、複雑で時間のかかることができるようになります」。

最近、聶氏のプロジェクトで注目を集めているのが、英語辞典とガブリエル・ガルシア・マルケスの大作『百年の孤独』の書籍とコーディング技術をかけ合わせた作品です。コーディング技術を使うことで2冊の本を60秒以内に表紙からページ順に並び替えることができます。
 
コーディングを使えば、600ページあるオックスフォード辞書の単語を1分でAからZの順に並び替えることができます。(グラフィックデザイン/聶永真)コーディングを使えば、600ページあるオックスフォード辞書の単語を1分でAからZの順に並び替えることができます。(グラフィックデザイン/聶永真)
▲コーディングを使えば、600ページあるオックスフォード辞書の単語を1分でAからZの順に並び替えることができます。(グラフィックデザイン/聶永真)
✔️デジタル版の『オックスフォード辞書』と『百年の孤独』はコチラ


この作品について聶氏は、留学をしたことで自分の新たなスタイルの開拓に迫られたと説明しています。「英語でデザインを学んだことで、自分の作品をさまざまな角度から見ることができるようになりました。特にタイポグラフィはアルファベットで考えなければならないので、自分の作品の形やスタイルについて改めて見直すキッカケになりました」。

こうした刺激的なデジタルアート作品を体験したい人は、台北デジタルアートセンターか2018年にオープンした空総台湾当代文化実験場へ足を運んでみましょう。どちらも躍動感にあふれるコレクションが多々集まっている場所であり、聶氏もおすすめのスポットです。

6 (Copy)4 (Copy)▲台湾当代文化実験場では時折バーチャル展覧会を開催し、視聴者に新たな体験を提供しています。(写真/C-LAB)

この他にも台湾ではデジタル技術を使った面白い試みが行われていると聶氏は言います。彼が今、最も気に入っているクリエーターが、銘伝大学出身のグラフィックデザイナーであるリバーズ・ヤンと3D作品を得意とする張以得の二人です。張氏とは過去に台湾のポップシンガー、炎亞綸のジャケット写真を共同で製作しました。この作品は割れた炎氏の顔から別な顔が見えるという異様な内容となっています。

デジタルの希少性を高める技術
クリエイティブ・コーディングの可能性は無限大ですが、これまでアーティストがデジタル作品を販売することは非常に困難でした。「デジタル作品は違法コピーができるため、作品を印刷したり、デジタル製版したりと物理的に手に取れる状態しなければ売ることができませんでした。以前は多くのデジタルアーティストが違法コピーを懸念していましたが、現在はNFTという技術に注目が集まっています」と聶氏は説明します。

NFTは非代替性トークンと呼ばれ、デジタル作品の所有権や真正性を証明することができる技術です。楽曲やgifファイル、さらにはツイートなど、あらゆるものに所有者や真正性を付与できます。これまでは主にデジタルアートの取引に利用されてきました。

foundation - AaronsNFTs (Copy)▲聶氏は頻繁にNFTアート作品を「Foundation」というデジタルアートのプラットフォームに出品しています。(グラフィックデザイン/聶永真)

「デジタルコンテンツがオリジナルであると証明できることは、アートの世界にとって大きな意味を持ちます。作品は『Foundation』のようなNFTマーケットを通じて、オンライン上で直接取引できます。作品の閲覧は誰でもできますが、NFTがあるため作品の持ち主は一人しか存在しません」。

お金が全てではない
NFTのマーケットはオークション形式のため、注目されれば非常に高い価格で落札されます。9月にはヨーロッパのオークションで初めてデジタル作品が出品され、Bored Ape Yacht Clubのグラフィック3点が982,500ポンド(1,355,835ドル)という驚異の価格で落札されました。そのため、美術品の投資家がこの波に乗ろうと躍起になっていますが、聶氏はこの高い経済的魅力が作品の質に影響を与えるのではないかと懸念しています。

「バイヤーには作品を投資対象としてしか見ておらず、作品そのものをあまり考慮せずに購入する人もいます。そのため、一部のクリエイターは手っ取り早く利益を得ようと、低品質な作品を大量に作成するだけになってしまい、デジタルアートで実現できることの限界に挑戦しなくなってしまいます」。

聶永真訪談-16 (Copy)▲聶氏は有名デザイナーとなって今でも変わらずデザインのスキルを磨き続けています。

台北のデジタルアートの未来

NFTの技術がもたらすものは、経済的な恩恵だけではありません。聶氏によれば、デジタルの真正性が証明されることは、ニューメディアアートの展示方法や体験方法にも影響を与えます。「これまでは物理的な空間に作品を設置することがすべてでした。額縁に入れたり、プリントアウトをして展示をしていましたが、デジタル作品の真正性が証明されれば、オリジナルをオンラインで見たり、AR技術を使って鑑賞することができるようになります」。

オンライン上で様々な活動ができる仮想空間をメタバースと呼びます。この空間はゲームや人工知能、AR、VR、暗号通貨など様々な技術が組み合わさって成り立っていますが、2021年10月に老舗のオークションハウスであるサザビーズがNFTコレクションを購入できるメタバースを公開。メタバースでは19名の著名人やコレクター、アーティストが出品した53点の作品が販売されています。

「デジタルアーティストとして、やメタバースには大きな可能性を感じています。こういったバーチャルな世界は、デジタルアートをイメージギャラリーやソーシャルメディアといった既存の枠組みを超えた存在へと昇華させてくれることでしょう」と聶氏は述べています。

聶永真訪談-27 (Copy)▲日常生活の中にある草や木が聶氏のデジタルアートのインスピレーションにつながっています。

 

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